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コミュニケーションのスキルが重要に

コミュニケーションのスキルが重要に

管理職を取り巻く環境が、厳しさを増しています。成果達成への圧力は高まる一方で、予測不能な時代の到来で、マネジメント業務自体が高度化しています。加えて、部下のキャリア形成にも目配りしなければなりません。リクルートマネジメントソリューションズが人事担当者と管理職300人を対象に6月に実施した「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」によると、組織の課題として「ミドルマネジメント層の過重負担」が「よくあてはまる」、あるいは「ややあてはまる」と回答した人の割合が65%を占めました。同社研究員の木越智彰さんに、中間管理層に求められる役割やスキルについて聞きました。

プレーヤー兼任でマネジメントの時間が不足

――課長、部長などの管理職の負担が大きくなる原因は何ですか。

ここ数年、働き手が減少する一方で、働き方改革が進み、ワークライフバランスが優先されるようになりました。仕事量は以前と変わらないけれど、部下には仕事を依頼しづらい状況になりました。同時に、管理職としての業務自体の難易度も上がってきたため、負担感は増しています。

今回の調査では、管理などマネジメント業務と営業などプレーヤー業務が仕事に占める割合を尋ねました。「プレーヤー業務比率が50%を超える」との回答が約6割となり、自らプレーヤーとして仕事をこなしながら、マネジメント業務にも携わっている人が多く、業務負担が増えているようです。

――なぜ、マネジメント業務が難しくなっているのでしょうか。

理由は三つあります。一つ目は、成果への強い要請です。管理職の目標には短期と長期があり、それぞれ達成しなければなりません。プレーヤー業務も担っている人は、部下の仕事ぶりの確認に充てられる時間が限られてしまいます。

二つ目は、見通しの不透明さにあります。新型コロナウイルス禍のような予想外の事態が起これば、過去の経験から対処法は見いだせません。管理職として、初めて取り組む仕事が増えています。仕事自体が高度化、複雑化し、部下の仕事の専門性も高まっているので、先を見通した判断や的確なアドバイスは、いっそう難しくなっています。

三つ目は、職場でのダイバーシティーの進展です。国籍など個人的背景、派遣や業務委託などの雇用形態、シニアやZ世代など年齢層、育児や介護などのライフステージといった多様性を理解し、個人の事情に合った対応が求められます。それぞれの希望に合う業務分担を考えたうえで、働きがいも高めていかなければなりません。

優先順位は、業態や成長段階、担当業務などによって変わります。商品企画や開発を担当していれば、将来を見通した計画の立案が重要になります。サービス業であれば、人が担う作業への依存度が高いうえ、担い手の入れ替わりも頻繁なため、ダイバーシティーの進展が与えるインパクトは大きくなります。

――調査では、人事部が管理職に期待する役割の上位に「メンバーのキャリア形成・選択の支援」がありました。一方で、管理職は「目標達成」や「部内の人間関係調整」を重視していました。人事部の要請と管理職の意識に、ズレがあるようです。

人事部は、組織の強化を目指しています。このため、長期的な視点での人材育成や優秀な人材の引き留めへの期待が高くなります。管理職は、3年程度の在任中に担当部署がなし遂げる成果の最大化という目線になりやすい。5年後、10年後を見通して考える必要のある部下のキャリア形成は、自分の役割だと意識していない場合があります。

リクルートマネジメントソリューションズの木越智彰さん

現在の管理職層が一般社員だったころは、経験を積んで、少しずつ役割の範囲が広がるシンプルなキャリアパスが一般的でした。辞令が出れば、それに従うという空気があり、今ほどキャリア選択の自由はありませんでした。当時の管理職は、部下からキャリアについて相談されても、提示できる道筋が少なかったはずです。こういった経緯が、部下のキャリア形成について関心薄い管理職を生み出す原因のひとつになったのでしょう。

得意分野とやりがいを部下といっしょに模索

――管理職が部下のキャリア形成を支援をするには、どんな知識やスキルが必要ですか。

大きく三つに分けられます。まず、業務に関係する社外と社内の変化をとらえ、どんな影響を与えるか考えてください。業務の一部が大きく変わる可能性があったら、部下に言葉で説明する必要があります。最新のニュースに積極的に触れるのはもちろんのこと、業務に関係する他部署の動きにもアンテナを立てるよう勧めます。仕事は複雑化する一方なので、ひとつの部署だけでは完結しなくなるでしょう。他部門との連携を想定しておくべきです。

つぎに、キャリア形成に関する最新情報を把握してください。社内のキャリアパスと職種について、自分の言葉で語れるようにしましょう。部下が将来、やってみたいと考える職種やポジションがあれば、今の業務と将来像をつなぐ説明が重要になります。希望の仕事を担当するために必要なスキルと経験を示して「今の経験は将来、こんなふうに生きる」と励ましたり、「この分野の勉強が必要では」と提案したりできるようになってください。

最後に、コーチングやカウンセリングなどのコミュニケーションスキルを高めましょう。部下は往々にして、キャリアプランが明確になっていなくて、ぼんやりと「この仕事じゃないんだよな」「このままでいいのかな」と思っているものです。話を聞きながら、得意分野とやりがいを感じられる仕事をいっしょに模索して、自己理解を手助けしてください。断定口調で一方的に伝えると、Z世代は相談相手にならないと見切り、心を開かなくなる傾向があります。若い世代には、自分の思いをきちんと受け止めてくれていると感じてもらうことが大切です。話を聞く姿勢が伝わるだけで、不安が和らぐはずです。

目指すはイノベーションを起こす組織

――管理職の育成には、どんな取り組みが必要ですか。

マネジメント業務は、プレーヤー業務と性質が異なります。プレーヤー時代の延長という心構えでは、うまくいかないでしょう。マネジメントの原理原則を学び、訓練する機会が必要です。多くの企業では、管理職に就任するタイミングで研修を実施しますが、コンプライアンスや労務といった課題の優先度が高く、マネジメントの基礎まで手が回らないようです。何をすべきか教わっていないという管理職が多く、必要な知識とスキルが行き届いていないという印象です。

マネジメントの基礎は、仕事の完遂、仕事の改善、メンバーの協業、メンバーの成長に分けられます。これら4本柱を理解して、就任から半年後には、業務全般をひと通りこなすよう求められます。経験を2、3年積むと、管理職として自分なりの型ができるでしょう。次の段階では、一段上のマネジメントについて考える研修があると効果的でしょう。

最近は、管理職就任の一歩手前で、早めにマネジメント研修を行う企業が増えています。管理職の補佐役が務まるようになるし、管理職は無理だと思っている人にも、業務の奥深さを体験してもらえるメリットがあります。

――マネジャー業務の喜びや醍醐味も変化していますか。

組織の発展や部下の成長に貢献する喜びは変わりませんが、権限の拡大に伴う仕事の魅力は増しているでしょう。今の管理職は、事業全体にインパクトを与えるように求められています。会社からは、他部署と連携したうえで成果を上げる取り組みが歓迎されます。管理職はつらいというイメージ以上に、醍醐味や手ごたえを感じられるポジションだと思います。

――管理職の転職で、注意すべき点はありますか。

企業が求める管理職像が、変わりつつあります。これまでの日本企業は、仕事の進め方が決まっていて、目標を効率的に実行する組織が多数を占めていました。けれども、予測不能な時代の到来で、管理職と部下が互いによい影響を与え合って、イノベーションを起こす組織への移行が求められています。管理職に対して、会社や担当部署の将来像を描く力を養成する研修が増えています。

管理職として転職するなら、マネジメント能力を発揮できた組織とマネジメント業務への理解について、整理してみるようおすすめします。それが済んだら、転職先の候補が、どんな管理職を求めているのか想像力を働かせましょう。中長期経営計画に目を通して、これから事業がどう変化するのかを理解し、求人票にある人材像を吟味することで、管理職として期待される業務内容を具体的にイメージしておくとよいでしょう。

《プロフィル》
木越智彰
リクルートマネジメントソリューションズHRDサービス開発部主任研究員 。ビジネス系出版社にて書籍の企画・編集に携わった後、2002年にリクルートマネジメントソリューションズに入社。海外事業、専属トレーナーのマネジメント業務を経て、現在はマネジメント領域の研修を企画、開発する。

(日経転職版・編集部)

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