「上司のチャットが怖い」リモート時代の新入社員の悩み
20代のおしごと相談室塩野 なので、上司側もルール変更があったという前提に立って指示・評価すべきですし、Cさんのご質問「この環境はおかしいか?」に対する回答としては、YESです。完全にハラスメントが起きているので、チャットをスクリーンショットするなどして証拠は保存して、まずは社内ホットライン、そして労基署に相談した方がいい事案です。
新社会人が持つべきは「心の安全地帯」
塩野 「1年目だから仕方ない」ということはなくて、パワハラと指導の境目は、人格攻撃かどうかです。例えば資料の内容がだめだったら、叱る対象は文章であるべきです。「だめ人間」などと言うのは1発アウトです。ちなみに、ベンチャー企業ならそういうことを言っても許されると思っている経営者が今でも少なくないんですよね。

産業医の大室さん
大室 邪推をすると、ベンチャー企業の管理職は経歴に自信がない方も結構います。そういう上司が、学歴や能力の高い年下の異性に対して強く当たってしまうのは、「あるある」なんですよね。なぜなら怖いから。自分がバカにされているんじゃないか、とかね。語学が得意なCさんに対して「日本語が一番下手」って、まさに嫉妬が入り交じったマウントのようにも思えます。
こういう上司の不安を解決するためには、マウントされるたびに、へーこらして、腹を見せるのも1つの方法。数カ月たつと、お笑い芸人のサバンナ・高橋茂雄さんのように、上の人からかわいがられるようになるかもしれない。ただし、「だめ人間」と言うような人に対して最適化すること自体が、社会のためにいいかどうかはわからないですが。
塩野 良くないですね。令和ではフラットな組織がトレンディーです。
大室 あるべき姿としてはホットライン案件。こういう会社は1度痛い目を見ないとわからない。ですが、23歳の新人にそこまで背負わせるのは酷でしょうね。ベンチャーや中小企業だと、そもそも法務部やホットラインの仕組みが整っていないこともあります。だとすると選択肢としてはやはり、逃げるのがお薦め、となりますね。
塩野 Cさんが「自信がなくなってしまった」とおっしゃっていることからも、とにかくこの手のケースでは、1人で悩むと本当に閉じこもってしまうのが心配です。
大室 入社1年で「できる」「できない」なんてないですよ。そもそも能力が多元化している時代ですから、ちょっとしたルール変更で「できる人」は変わります。テレビ番組のひな壇ではいまいち活躍できなかったお笑い芸人が、ユーチューブで花開いた、という例は結構ありますよね。フォーマットがころころ変更する時代に「できない人間」なんて大ざっぱな言い方は成立しないわけで。
塩野 優秀の定義が変わってるんですよね。
大室 そうです。光の当て方で、並び順が変わる。「できる・できない」なんてそのくらいのものだと、相対化して考えられるといいですね。
もう1つは、家族でも友人でも、社外に自分の心の安全地帯を持つことも大事です。市場価値とは違った部分で、自分を承認してくれるところ、自分を根拠なくチアアップしてくれるところを逃げ道として作っておくというのが、社会人の土台作りとして大事だと思います。それは新社会人の皆さんにもお伝えしたいポイントですね。
(文・構成 安田亜紀代)
産業医科大学産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医や医療法人社団同友会の産業保健部門を経て、独立。現在、大企業からベンチャー、外資、独立行政法人まで30社以上の産業医を担当。著書に『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書)など。
経営共創基盤・共同経営者。ゴールドマン・サックス、ベンチャー起業、べイン、ライブドアなどを経て現職。大企業のコンサルティングや北欧・バルト地域でベンチャー投資を行い、フィンランド在住経験がある。著書に『20代のための「キャリア」と「仕事」入門』(講談社)『デジタルテクノロジーと国際政治の力学』(NewsPicksパブリッシング)など。