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トップの判断の影響を実感、判断力磨く

だが、95年に青島幸男氏が都知事選で圧勝し、都市博は中止に。最終的に都から国内外都市や企業などへの補償実施計画額は総額340億9400万円に上る事態となった。中止決定で見切りの早い会社が出向者をどんどん引き上げるなか、半年ほど残って残務処理を担当。企業などに対する補償の事務処理をする日が続いた。

トップの決断で多くの人に影響が及ぶことを目の当たりにしました。大企業が請け負った仕事でも、実際には下請け、孫請け、そのまた下請けの小さな町工場が請け負っていることも。そうすると、「発注は電話1本だけ」で契約書がないといったケースも当時は珍しくありませんでした。

けれど、なんとか契約を証明してもらえないと補償金をお支払いできないのです。そうなると、企業側は運転資金が回らなくなって、グッズをつくるなどで設備投資をしていた場合はその資金も回収できなくなってしまう。都市博中止で「あすからどうすれば……」と厳しい事態に直面する中小零細企業の例をたくさん見ました。

それだけに、自分が職務で何かにGOサインを出す際は「本当にいいのか。失敗する要素があるとしたらどこだろう」とよく考えるようになりました。成否が半々でやると決断した場合は「何をもって撤収とするか」まで検討するように心がけています。

「『一生懸命やる』は不十分。やるべきことをやる」

都市博中止の残務処理に追われた95年に結婚。「博覧会の仕事から戻ってきたら次の仕事が新しいビジネスの立ち上げだった」。2度目の出向は、三井系企業6社が設立した三井ダイレクト損保。金融ビッグバンによる規制緩和で誕生したネット損保で、30代の大半を同社で過ごした。「自分たちが考えたビジネスをやる会社をつくれる。どこに転職したって、そんな経験はできない」。「0から1を生み出す」ことに携わった、思い出深い職場だ。仕事に向き合う指針となる言葉に出合ったのは、その創業の前段となる準備期。ダイレクトビジネスの検討をしていた頃のことだ。

現在は三井住友海上プライマリー生命保険の会長でいらっしゃる藤井史朗さんが上司だったときのことです。藤井さんは、ことあるごとに、こうおっしゃっていました。

「『私にできることを一生懸命やります』はダメ。それでは不十分で、『やるべきことをやります』じゃないとダメなんだよ」

確かに、やれることを一生懸命やるのは当たり前ですよね。それでは、「やれることしかやらない」ともなりかねない。面と向かって1対1で言われた訳ではないですが、「なるほど。そう考えなくては」とストーンと腑(ふ)に落ちました。以来、どんな職務、立場でも「やるべきことは何か」を軸に物事を考えて、仕事に向き合うようにしています。

「やるべきこと」を考え抜いた あの頃

やがて本体に戻った40代前半、「『やるべきこと』は何かを考え抜いた」と振り返る職場がある。顧客からの契約内容に関する問い合わせに対応するほか、苦情などがあった際の受付窓口となる「コンタクトセンター」だ。現在は自動会話プログラムのチャットボットほか、多様なアクセスポイントが整備されている。だが、着任したのはデジタル化黎明(れいめい)期といえる13年のこと。同センター15年当時でも、年間150万件もの顧客からの電話に対応していた。コンタクトセンター企画部課長というライン管理職として配属されてほどなく、課題に気づく。

一言でいえば、部署の状態が良くなかったのです。(代理店を介さないネット損保としてコールセンターが重要な役割を果たす)三井ダイレクトに10年いたので、すぐにそう分かりました。

ただ、他部門から異動してきたばかりの私に「その運営方法は違う」など言われたら、誰も腹落ちしませんよね。だから課題をどう説明し、どう改善して成果として示していこうか、「やるべきこと」を考え抜きました。

一番まずいのは、オペレーターがお客様から入る電話を取れないことですよね。お客様からすれば「(電話を)かけてもかからない」、オペレーターたちも「とってもとっても仕事が終わらない。疲れて休みもとれないし長時間労働をしなくてはならない」と疲弊が続いてしまう。職場の空気が荒れている感じでした。

保険会社は営業系の会社とあって、「そんなもの気合でとれ」という人も。それに対しては「気合じゃ電話はとれません」とすかさず、反論しました。同時に、なぜ状態が良くないのか、いろいろ調べて対策を取りました。

それにはまず、なぜ電話をとれないのか分析しないといけない。お客様はどんな用件でいつ電話をされたのか、それに対応するにはどういうスキルを持ったスタッフがどこに何人いればいいのか。地道な分析や数値化に取り組むと同時に、人工知能(AI)を使ったクラウドのシステムなどを導入していくことで「こういう電話がいつかかってくる」といった予測の精度を従来より高めていくように仕組みを変えました。

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