ビジネスに不可欠「アート思考」 未来導く問いの力
アルス・エレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表 小川秀明氏に聞く
ニューススクール視覚情報が氾濫する時代だからこそ
――アート思考は誰でも身につけられるのでしょうか。
もちろんだ。アート思考で大切なのは「心構え」であって、特別なスキルではない。アート作品を創るわけではないので、絵の上手下手は関係ない。心構えを身につけるには、「アート」「テクノロジー」「社会」の視点から事象を読み解く訓練をするとよい。
例えば土偶を見たとして、創られた当時にタイムスリップしたつもりになって「なぜこのデザインになったのか」「なぜその素材が使われたのか」「当時の社会課題は何なのか」とワンセットにして考え始めると、今までつまらなかった美術館が面白くなってくる。
そして、バイオやマテリアル、人工知能(AI)、ロボティックスなどの先端領域を扱うメディア・アートを体験してみてほしい。アーティストや科学者、エンジニア、起業家たちがリサーチを通して形にする作品は、未来の可能性や課題を深く考えるきっかけとなるはずだ。
――母校である慶応義塾大学でアート思考を取り入れた授業を始めました。アーティスティック・ジャーナリズムがテーマですね。
アーティスティック・ジャーナリズムとは芸術的な表現、調査、探求、そして行動によって社会的な対話を生み出す行為と考えている。文字による客観的な事実の伝達ではなく、芸術表現によって主観的に感じられる未来を体験する機会を創出することに特徴がある。
現代は文字や画像という視覚情報が繁栄する時代だ。多量の視覚情報を消費する中で、事実や問題に注目し「スロー」に考えることが少なくなっている。そこで、ジャーナリズムにアート思考を取り入れることを考えた。オーストリアからの遠隔授業だが、アルスの展示物をライブで紹介するなど様々な工夫を凝らしている。学生から「授業をきっかけとなって物事をじっくり考えるようになった」といった反応もあり、うれしく思っている。
アルス・エレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表
2007年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。05年の「愛・地球博」に作品を展示するなど慶大在学中よりアーティストとして活動。07年にオーストリア・リンツに移住しアルス・エレクトロニカのアーティスト、リサーチャーとして活動。19年よりアルス・エレクトロニカ・フューチャーラボの共同代表。このほかアーティスト・グループh.oを主宰。慶応義塾大学環境情報学部特別招聘教授として20年から「アーティスティク・ジャーナリズム」の授業を担当。
(聞き手は大石信行)