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「灘の生徒は面白そうやという感覚で志望校を決めるタイプが多い。半面、現実主義だし、未来を読み取る力にもたけている。将来は医師も余る時代が来ると言われる。医師以外にもっと面白い世界があると考える生徒が増えているのでは」と冨田会長は語る。鉄緑会からの理3合格者の割合は17年には6割を超えたものの、若干下がったのは理3志望に異変が起きているからかもしれない。

40年までに医師過剰時代も

少子高齢化による人口減で、厚生労働省などでは40年までに医師過剰時代が来ると指摘する声が出ている。しかも人工知能(AI)の技術により、診断技術が革新的に向上したり、オンライン診療の普及で医療の効率化が進んだりすれば、医師のニーズが大幅に下がる可能性もある。医師になれば、高収入で社会的な地位もあり、一生安泰という神話が崩れるかもしれない。かなり遠い未来のようだが、現在の高校生であれば、働き盛りの30代に40年を迎えることになる。

AI、ロボティクス、宇宙工学――。イノベーション(技術革新)が次々と起こる変革の時代の中、灘高などトップ進学校の生徒の志向も変わっているようだ。灘高OBの前田さんは「これまでは塾や保護者の影響で、成績優秀者は理3を目指すという考えになりやすかったが、今は医師以外の選択肢もあるという情報に触れやすくなっている。医師以外にも格好いい成功の道があると考える高校生が増えているのではないかと思う」と話す。

灘高にもグローバル化が浸透してきている

灘高にもグローバル化が浸透してきている

灘高の「神童」たちにもグローバル化、そして多様化が浸透してきている。デジタル作品のアート化を手掛けるアマトリウムの丹原健翔社長は「灘時代は興味の赴くまま10ぐらいの部活を経験した。理3を目指して必死に勉強する生徒が多いが、自分は違うな」と灘高卒業後に米ハーバード大学に進学した。心理学を学び、17年に同社を起業。最近は灘出身の若手起業家も目立つようになってきた。

「日本の理系人材の医学部偏重は異常。欧米や中国との技術競争で遅れている一因だ」(ある東大大学院教授)と嘆く研究者は少なくない。トップ進学校の神童が目指すキャリアの多様化が進めば、日本のテクノロジーの未来はもう少し明るくなるかもしれない。

(代慶達也)

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