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なぜコーヒーの後に緑茶が出るのか

2番目の理由に挙がった「丁寧なおもてなし」を物語るサービスの1つに緑茶の提供がある。ルノアールではコーヒーを飲み終えてしばらくしてから、無料の緑茶がテーブルに運ばれる。一般的な喫茶店では最初の着席直後に冷たい水が出されるものの、その後に無料の飲み物が追加提供されるのはまれだ。和菓子店・甘味処では緑茶が出るところが多いが、洋風喫茶店では異例といえる。

緑茶を出す理由を、小宮山社長は「コーヒーを飲み終えても、さらにゆっくり過ごしてもらいたいという気持ちを込めている。お茶は安らぎを象徴するような飲み物。すし店でも締めのポジション。満足感を高めてもらううえで意味がある」と説明する。インターネット上での書き込みでは「お茶が出たら、そろそろ席を立たないといけないと感じる」といった声もあるが、「腰を上げてほしいといった意図は全くない」と、ネット言説を打ち消す。

テーブルに緑茶を運ぶタイミングにも心配りが行き届いている。基本的なタイミングは「コーヒーを飲み終えるあたりの頃合いを見計らって出すよう、スタッフには指示してある。コーヒーが冷めてしまうと、おいしさが薄れるので、温かいお茶をそのタイミングで提供している」(小宮山社長)という。テーブルに湯飲みを置く際も、客が余計な気を遣わないよう、さりげなく静かに届けるようにしているそうだ。

銀座ルノアールの小宮山誠社長

銀座ルノアールの小宮山誠社長

接客にあたっては「干渉しすぎないように」という点を心がけているそうだ。たとえば、湯飲みごと差し替える形で緑茶のお代わりを提供する場合も、頻繁に行きすぎると、「退店を催促されているのではないか」と誤解されるおそれがあるから、頃合いを見計らうように努めているという。「お客様がせっつかれるような気持ちになるのは、こちら側の本意に反する。あくまでものんびりくつろいでほしいというのが大前提」(小宮山社長)。ルノアール流の寄り添いすぎない接客法は付かず離れずの距離感によさがあるようだ。

ルノアール流のおもてなしとして評価が高いものとしては布おしぼりも有名だ。近年は多くの飲食店でビニール袋に個別包装された不織布製のウエットタイプが普及している。店舗側にとっては布タイプに比べ、使い捨てのぶん、管理が楽でコストも安い。しかし、ルノアールは少数派になった布タイプを使い続けている。不織布タイプに切り替えるのは、おしぼり業者が休む年末年始だけだ。

「厚手の布ならではの肌触りや使い心地はおもてなしのシンボルとしてはずせない」と、小宮山社長は布を貫く理由を語る。ルノアールでは不織布製に変える予定がないという。おしぼり袋を勢いよくたたいて「パン」と音を鳴らしながら開け、顔を拭くのは、昭和の男性イメージを象徴するようなしぐさともいわれるが、小宮山社長は「日本の喫茶店ならではの楽しさともいえる。自分なりの楽しみ方で喫茶店時間を満喫してほしい」という。

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