リモートワーク賛成・反対 社内の温度差どう埋める?
KPMGコンサルティング 油布顕史プリンシパル
キャリアとお金を考えるこのようにリモートワークの日常化は、企業のワークスタイルや人材マネジメントを考え直すきっかけになっています。また、ワークスタイルは、組織風土(カルチャー)や社員と会社との関係性(信頼の度合いや親密度)の影響を受けています。よって、ワークスタイルを再考するためには、組織風土や企業と社員の関係も考え直す必要があります(図)。

(図)ワークスタイル・組織風土・社員と会社との相関
人間関係が良好であればマネジメントの拙さを癒せるのか?
これからのワークスタイルを考えるにあたり、社員満足度調査結果から日本企業の社員と会社の関係を考えてみます(KPMGが実施した組織風土調査結果からみた考察であり、全ての企業に該当する見解ではありません)。社員の満足度が比較的高い項目は「職場の人間関係」「職場環境(チーム意識・助け合い)」「業務内容」で、逆に満足度が低い項目は「組織の変化への対応(方針・優先度の打ち出し)」「組織の意思決定の迅速さ」「部門間連携」「人材マネジメント(人事考課の妥当性など)」です。
ここから見えてくるのは、日本企業の人材マネジメントは「人間関係を主体」としており、「人間関係を良好に保てば、マネジメントは万事うまくいく」という考えが根底にあるように思われます。人間関係が社員の働くモチベーションに影響を与えるのは論を俟(ま)ちません。それゆえ対面による人材マネジメントは人間関係を直接確認できるので管理職にとっては都合の良いやり方といえます。
ただ、働くニーズが多様化していくなかで組織に求める人間関係も個人ごとに違ってきており、人間関係を重視した画一的な人材マネジメントは難しくなってきています。人間関係は良好すぎると、それを維持するために仕事の緊張感やスピード感がなくなり、必要な場面での厳しさが欠けてきます。それがスピーディーな意思決定にもマイナスの影響を与えるかもしれません。また、仲間意識が強すぎると、かえって言いたいことが言えなくなる雰囲気(同調圧力)が醸成され、変化に向けた対応がやりづらくなったり、組織がタコツボ化して部門間連携が阻害されたりする可能性が高まります。
管理職・社員のあるべきワークスタイルを検証
リモートワークの日常化は、私たちがこれまで見えていなかった人材マネジメントの巧拙を浮き彫りにし、あるべきワークスタイルを再考する良い機会と言えます。管理職、社員、会社側のそれぞれの観点から考えてみましょう。
まず、管理職は今のマネジメントのやり方を検証してみましょう。例えば、「これからの管理職は、社員の何を管理すべきか?」「社員のパフォーマンスは対面でないと確認できないのか?」「社員との意見交換の質は十分か(ホンネを引き出せているか)」などの観点で考えます。
次に、社員は現在置かれている職場環境に順応しすぎていないかどうかを自問自答してみましょう。例えば、「いまやっている業務は誰にどんな価値があるのか?」「与えられた仕事を粛々とやれば今後も問題は発生しないのか?」といったことなどの観点で考えます。研修や自己啓発などの能力開発もこれまでは会社がすべてお膳立てしてくれましたが、今後は自分で決めて進めなければならない場面も増えます。プロとして常に自己研さんすることが求められます。働く環境は主体となる人が考えて、それを会社に求めることが有益です。
最後に会社側です。社員が働きがいを持てる、魅力的な会社に変わり続ける努力をしているかどうか検証してみましょう。例えば、「報酬はそこそこで、裁量(権限はない)を与え、労働時間管理をやっていればよいと思っていないか」「飲み会をやれば社員同士の交流を図れると思っていないか」「社内コミュニケーションにタテマエとホンネが混在し社員に混乱を与えていないか」などの観点で考えます。