20年先を読む 著名投資家が明かす伸びる企業の条件
『おいしいニッポン 投資のプロが読む2040年のビジネス』
若手リーダーに贈る教科書「穴」を発見して「穴」を埋める
著者が本書の中で、ケーススタディとして取り上げている企業はどんな企業でしょうか。例えば、第1章で紹介されているスカイマティクス(東京・中央)。同社はドローン(小型無人機)を活用し、空撮した画像データをもとに、農作物の生育状況や収量などを見極め、農家にその情報を提供する農業支援サービスを展開しています。もとは、三菱商事と日立製作所の共同出資で設立された会社ですが、19年にMBO(マネジメント・バイアウト)で、独立しました。
経営の効率化や人手・後継者不足を背景に、日本の農業は大規模経営が進んでいます。そこでこうした支援ツールがあれば、農家の強力なサポートになるというのが、スカイマティクスの見立てです。「スカイマティクスが見ているのは、10年後にこの業界のお客さまにとって何が課題になるのかということです。社内では『未来の課題を解決する』といっています。ですから売る相手は誰かといえば、『10年後の農家さん』です」(44ページ)という同社の渡辺善太郎社長の言葉を紹介しています。ドローンを使った「空からのデータ」というサービスは、農業だけでなく、建築や測量といった領域にも展開しており、さらなる領域の拡大により20年先の成長が期待されます。
もう1つ、ケーススタディで紹介された企業で印象的なのは、第4章で登場するヤマガタデザイン(山形県鶴岡市)です。三井不動産元社員の山中大介社長が14年に設立、水田が広がる広大な土地で、まちづくりを進めたいと考えたのがきっかけでした。同社が手がけたのは、まずホテル。地元にあったインキュベーション施設を活性化しようと、関係する人や観光客を集めるホテルをつくりました。その後、児童教育施設をつくり、施設には遊具や図書館、ものづくりができる設備なども設けました。著者は、山中社長の言葉をこのように紹介しています。
「地方都市はどこも子どもの数が減少していて若年層も流出していくので、何もしなければ人口が減ってシュリンクしていくだけです」
「若い世代が希望を持ち、夢を抱いて働いたり暮らしたりできる地域にしなければ、絶対に残っていけません。これはマーケットとしては非常に逆風が強いともいえますが、地域の資源を活用しながら、逆張りの発想で事業をつくり上げていきたいんです」(146ページ)
著者がケーススタディで取り上げている企業は、実にこうした企業ばかり。共通するのは、社会の「困りごと」、いわば社会で必要とされていることを素早くとらえ、解決策を考える形で事業を興しているという点です。著者はこの困りごとを「穴」という言葉で表現し、「穴」を発見し「穴」を埋めていくことが今後成長する企業の条件ととらえています。
ここでいう「穴」とは、社会課題のことです。理想と現実のギャップといってもいいかもしれません。「理想としてはこうあってほしいが、現実はそうなっていない」というとき、その差分が「埋めるべき穴」となります。
(第2章 さらに進化するアフターコロナの「暮らし方×働き方」 82ページ)