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経済学の実装で目指す世界観

「不動産オークションにとって、何が一番大事か?」 もしこのように聞かれたら、私は「信頼性」だと答えます。ここで言う「信頼性」とは、売り手、買い手、そしてオークション参加者に対するものです。

まず売り手。売り手が重視するのはやはり、「いかに高く売るか」です。不動産の売り手は本当に多様で、一生に一度しか売却しない売り手もたくさんいます。また不動産は、一般個人の方でも数千万~数億円という売買金額になることもあります。たとえば1億円に近くなってくれば、0.1%でも価格が上がれば10万円も変わります。一生にたった一度の不動産売却かもしれず、その経験や知識のない方でも信頼できる仕組みとは何か。そして、どうすれば最後の0.1%まで価格を上げて、「現時点の最高値」で売れるのか。

次に、買い手の場合はどうでしょうか。多くの不動産売買は、「早い者勝ち」です。「偶然」、その不動産情報を最初に知ったことが購入要因になる、となれば、「運」の要素も大きくなります。また、その「偶然」を勝ち取るために、多くの方が時間とお金というコストをかけて、情報収集をしているのが現状です。その「運」や「偶然」の要素を極力排除できないか。売買金額のみに注力できる、公正な仕組みはできないか。不動産事業者だけでなく、一般の方でも参加できる仕組みはできないか。

こうした2つの信頼――「オークションによって、現時点の最高値で売れる」という売り手からの信頼と、「早い者勝ちや不正などがなく、入札額のみで購入者が決まる」という買い手からの信頼――に応える仕組みこそ、オークション初参加者が、参加する前から安心できるものでしょう。不動産の場合は、売買経験が豊富な人のほうがまれですから、この点は特に重要です。

そしてこれらは、長期的に見た場合の、オークション参加者、そして売り手・買い手の増加にもつながるでしょう。

こうした課題感を持って、私は経済学の一分野「オークション理論」を、現実のビジネスに実装し始めました。さらに、談合などの不正を防ぐための学知も取り入れています。このように、理論がビジネスを裏付けている、というのは、想像以上の大きな信頼感につながっています。なぜなら、理論は、言葉を尽くすよりも雄弁に、私たちの手法の正当性を示してくれているからです。

「学知」の実装は、机上の空論ではなく、現実の行動を変えるものです。そして、不正やずるをした人が得をしない仕組みを実現するものです。

ただし、公正・信頼を高めることは長期的なマーケットの成長に必須ではあるものの、不動産オークションというマーケットの運営者がマーケットの公正な運営や信頼を構築したとしても、収益に直結するわけではありません。実際、18年当時は、「経済学」でビジネスにどんな貢献ができるか見えてこない人たちが多くいました。特に、収益に直結しない学知が、自分たちに必要だと感じてくれた人はほぼ皆無でした。当時はまだ景気もよく、学知の実装を考えなくても、成長していたのです。クリプトエコノミクスなどの新しい分野に「経済学」の重要性を認識している人たちがいたものの、全体で見るとまだまだ少数派でした。

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