変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

限られた時間で最大の成長を志向

まず、野球に打ち込んでいたところから、一気に受験勉強のスイッチを入れた。「社会で活躍したい、貢献したい。それには何が必要か」を考え、次の目標に向かってガラッと生活を変える自己変革力と集中力を持っている。ゼロからの出発を恐れていない。

留学にまつわる振る舞いもほかの学生と全く異なっていた。最初から英語=手段、学び=目的という思考ができていた。これは英語を学ぶすべての人に必要な思考だが、学生時代は特に、手段である英語が目的になりがちだ。

就活のスタイルも人と違っていた。日本的な右にならえを象徴する「イベント」において、なぜ人と違う戦略を取ることができたのか。100人の社会人に会い続けるのは普通の学生ではなかなか難しい。限られた時間の中での「最大成長」の達成が彼の動力源に見える。それが面接官をも魅了するのではないか。人と違う行動と戦略を取る「差別化」は、社会人がリスキリングをしたり、転身したりする際のポイントにもなる。

付け加えると、交換留学や先輩社会人の紹介のシステムといった大学が用意した制度をいち早く取り入れて最大限活用したことも、違いを生んだ要因だ。これは学生だけではなく社会人にも言えることで、学習や副業を支援する社内外の制度を調べて活用することは、リスキリングの成否につながる。

自分が主役で会社は舞台

入社後のハードな仕事ぶりと実績は、常に一番をめざすという姿勢とコミュニケーション力の結果と言える。ここでも最大成長志向が垣間見られる。組織内での長期雇用の下で出世することには、あまり魅力を感じていない。「部長になるまでにはあと何年」といったような時間をもったいなく感じているようだ。

堤さんのように将来の起業を目標に置くと、いま在籍している会社は自身のスキルを成長させる場であり、将来の準備の場としてとらえ直すことができる。この点は、リスキリング時代の会社概念の見直しに通じるものがある。会社に個人が依存するのでなく、自分が主役で会社は自分が活躍する舞台であるという思考だ。舞台がなければ役者は演じられないが、舞台は変わってもいい。

さて、私なりの成功の式は、人のアウトプット=①スキル(問題解決力、人間力、専門知識)×②モチベーション×③マッチング、というものである。

堤さんは①のスキルでは人間力が抜きんでていて、人を魅了するコミュニケーション力がある。私も仕事柄多くの人に会うが、トップ1割に入る。デジタルや専門知識はこれからだろう。②のモチベーションは目標志向、集中力、達成意欲が極めて高い。経営学の「期待理論」では、努力して得られた報酬に対する満足度が高ければ高いほど、その後の仕事に対するモチベーションもアップすると考えられているが、野球、留学、就活というプロセスでこのメカニズムがとても良く回っている。

③のマッチングだが、本人は営業が合っており、競争が好きで成果も上がっているので、適合していると言えるだろう。ただ、例えば間接部門に配属され、デスクワークのみとなったら、どうなるかわからない。短期的には現状のまま営業で戦うのが常道と考えられる。

社会人としてまだ1年目を終えたところなので、早計な結論づけはできないが、堤さんのスキルの成長スピードと、目標への達成欲求の強さは、この時代にマッチした特質であり、成功を支えている要因と言えそうだ。

西山 昭彦(にしやま・あきひこ) 立命館大学客員教授・明星大学客員教授
一橋大学社会学部卒業後、東京ガス入社。ロンドン大学大学院留学、ハーバード大学大学院修士課程修了。中東経済研究所研究員。アーバンクラブ設立、取締役。法政大学大学院博士後期課程修了、博士(経営学)。法政大学大学院客員教授、東京女学館大学国際教養学部教授、一橋大学特任教授、立命館大学共通教育推進機構教授を経て現職。人材育成、企業経営、キャリアデザインを中心に研究し、取材はのべ2千人、研修・講演は通算千回を超える。「ビジネスパーソンの生涯キャリア研究」がライフテーマ。著書は計63冊。日経BizGate連載記事(https://bizgate.nikkei.com/series/BSH01033

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