百貨店DX推進役は経営学博士 請われてヤフーから復帰
大丸松坂屋百貨店 DX推進部部長 岡崎路易さん
フロントランナーの履歴書――大丸松坂屋百貨店で管理職の出戻りは初めてだそうですが、どんな経緯だったのでしょうか。
転職後も大丸松坂屋百貨店の澤田太郎社長とはときどき会ってIT(情報技術)業界で学んだことなどを話していたんです。そしたら20年5月下旬の朝イチにメッセージが来て。コロナ禍で経営を変えないといけないという思いがつづられていて、うなずきながら読み進めると最後に「つきましてはデジタル部門を立ち上げるので、リーダーとして戻ってきませんか?」と。驚きました。いつかまた戻って貢献できたらいいなと考えてはいたのですが、まさかこんなに早く機会が訪れると思ってませんでしたから。でも「一緒に攻めましょう」と社長から言ってもらえるチャンスは2度とないだろうと思って、戻ることを決めました。
――DX戦略とは具体的にどんなことを。
当社にとってのDXは収益の「複線化」をデジタルで実現することなんですね。まずは店舗以外の収益モデルを作っていく。例えばファッションレンタル事業の「アナザーアドレス」もそうですし、インフルエンサー事業も、これまで店頭で販売するしかできなかったのが、商品を紹介するだけで手数料が入ってくるとか、まさにデジタルで人を活用した新しいビジネスになると思います。

インフルエンサーの「野崎さん」(写真右)の展開について、岡崎さんは「企業からの広告案件やメーカーとのコラボ商品開発といった次の一手も考えています」と語る=岡崎さん提供
最近、社長が「ヒューマンメディアカンパニー」と表現していますが、メディアのようにしっかり情報発信していくことも目指しています。だからデジタルビジネスも人が介在することを大事にしています。例えば22年春に立ち上げる化粧品サイトでは、高級ブランドで販売経験のある社員がオンラインを中心に活動するビューティーアドバイザーとなり、その人に合った化粧品をブランド横断で提案できるようにする予定です。
会計は「経済活動の写像」
――DXの仕事に必要なスキルや経験は何でしょうか。
難しいですね。DXって、デジタルを使ってビジネスモデルを作り変えることだと思うんです。だから要素としてはデジタルマーケティングや情報システムの知見、それからビジネスモデルを考える力、という感じでしょうか。特にビジネスモデルの部分を私が考えられるのは、ファイナンスのバックグラウンドがあるからだと思います。
――新規事業や事業戦略を考えるとき、学んだことはどう役立っていますか。
いつも考えることは事業の大義で「どんな社会課題を解決するのか?」を第一に考えています。大学院で「なぜ自分はそれするのか?」を徹底的に考えさせられたことが新規事業・事業戦略を考えるときの根底になっているんですよね。ただ、公共事業をしているわけでないので、次に考えるのは「もうける仕組み」の設計。小手先の売上拡大やコスト削減ではなく、仕組みとして収益をちゃんと獲得できることが大事です。「もうける」メカニズムを解剖するためには、会計の知識は必須です。
経営学者は会計を「経済活動の写像」と言います。数字に現れるものはすべて、会社とそのステークホルダー(ユーザー、取引先、従業員など)が何らかの行動を取った結果です。なので「数字を見てビジネスを理解できる」ということは、ステークホルダーがどういうふうに動いているかを理解できることだと思っています。 何をしたらどの数字がどう動くかわからずにビジネスを考えるのは、ルールを知らずに野球をするようなものです。
――新規事業や経営に携わりたいと考えている方へのアドバイスはありますか。
経営陣が常識として話をするようなことを理解して、ちゃんと返答できるようになる、ということだと思うんです。それには教科書的な経営学の基礎知識、企業経営の時事情報をしっかり頭に入れることが必要です。
あと若い方は年配の経営陣より、新しいテクノロジーに対する体験値は高いはず。なので、新しい体験をしっかり積んで、それを発言できるようになることを強みにするといいと思います。そうすれば経営陣にとって、自分と同じレベルのことを理解していて、さらに自分の知らないことも知っている人として重宝してもらえるのではないでしょうか。
(安田亜紀代)