教育訓練給付金とは? 注意点や制度の最新動向を解説
知っておきたいリスキリング
デジタル化やAIの普及などビジネス環境が目まぐるしく変わるなか、リスキリングに対する関心が高まっている。これからスクールや大学院などを検討するビジネスパーソンにとって、費用面で助けになる制度が「教育訓練給付金」だ。
今回はその対象講座や申請手続き、注意点について、知っておくべきポイントを紹介する。「人への投資」を主要政策と位置づける岸田文雄政権がリスキリング支援制度を強化しており、それに伴って拡充された内容など最新情報も含めて解説していく。
教育訓練給付金とは
教育訓練給付金とは、キャリアチェンジやスキルアップを目指して、資格取得のための講座や大学・大学院などを受講・修了した場合に、費用の一部が国から支給される制度だ。
一定の受給条件を満たした人であれば、所得や年齢の制限もなく、幅広い人が使える。英語能力テスト「TOEIC」などの身近な検定試験に向けた講座から、税理士のような資格取得のための講座まで対象が幅広いうえ、支給額の上限も10万円、20万円などと高い。
リスキリングに取り組む場合にはぜひ活用したいところだが、受講前後の手続きもあるため、事前の確認や準備が必要だ。
教育訓練給付金の種類と支給金額
教育訓練給付金は3種類ある
ここからは教育訓練給付金の種類と、それぞれどのぐらいの金額がもらえるのかを解説する。まず、対象となる教育訓練は以下の3種類がある。
②特定一般教育訓練(速やかな再就職や早期キャリア形成に資するもの)
③専門実践教育訓練(中長期でのキャリア形成に資するもの)
この種類によって、支給金額は異なる。以下の表で、支給金額の例を記載した。
同じ大学院でも、経営学修士号(MBA)や法科大学院のような専門職大学院の場合と、それ以外の大学院では種類が異なるため、表を見て確認していただきたい。

それぞれ支給金額はどのぐらい?
3種類それぞれの具体例で、支給金額をシミュレーションしてみた。
TOEIC対策講座(入学金3万円、受講料42万円)の場合
45万円×20%=9万円
→上限の10万円以下のため、9万円が支給される
社会保険労務士試験対策講座(入学金0円、受講料80万円)の場合
80万円×40%=32万円
→上限の20万円が支給される
MBA(入学金30万円、受講料130万円)に2年間通った場合
計80万円(160万円×50%)が20万円ずつ、半年ごとに支給される
さらに大学院を修了し、1年以内に雇用保険の被保険者となる就職をした場合や、すでに就職をしている場合は、
160万円×20%=32万円 が追加支給される
→計112万円が支給される
教育訓練給付金の支給対象
雇用保険に加入している会社員、パート、アルバイトの多くが対象
教育訓練給付金は、所得や年齢の制限もなく、会社員や、週20時間働いているパート、アルバイトの多くが利用できる制度だ。
支給の大前提は、雇用保険への加入となっている。「1週間の所定労働時間が20時間以上」「31日以上の雇用見込みがある」の2つに当てはまる人は、事業所の規模に関わらず、雇用保険に加入している。
この雇用保険に、受講開始日時点で加入しているか、その時点では加入していなくても離職してから1年以内(妊娠、出産、育児、疾病などで適用対象期間を延長した場合は最大20年以内)であることが、まず必要だ。そのうえで、今までに教育訓練給付を受けたことがなく、雇用保険の加入期間が1年以上(専門実践教育訓練の場合は2年以上)あれば、支給対象となる。
今までに教育訓練給付を受けたことがある場合でも、前回の受講開始日以降、雇用保険の加入期間が3年以上あれば支給対象となる。
なお、公務員は雇用保険に加入していないため、教育訓練給付金を受け取ることができない。
雇用保険に加入していない場合も活用できる制度がある
雇用保険に加入していない場合や、加入していたが離職して1年以上経っている場合は、主に離職中の人が対象となる「求職者支援訓練」などを活用できる。
教育訓練給付金の支給対象になる「経費」の範囲
教育訓練給付制度では、教育訓練経費に20%や70%といった割合をかけた金額が支払われる。教育訓練経費として認められるのは、資格スクールなどの教育機関に対して支払った入学金と受講料だ。
受講のための交通費、パソコン費用、検定試験の受講料、必ずしも必要でない補助教材費、受講先の教育機関が実施する行事に参加するための費用などは、支給対象の経費には含まれない。
教育訓練給付金の申請方法
受講前に必要な手続き
教育訓練給付金を受給するためには、受講前にハローワークへの手続きが必要な場合がある。教育訓練の種類によって手続き方法が異なるため、3種類それぞれの場合に分けて、必要な書類や手続き方法について解説する。
一般教育訓練の場合
ハローワークへの事前の申請は必要ない。
専門実践教育訓練の場合
事前にハローワークで1時間ほどのキャリアコンサルティングを受ける必要がある。キャリアコンサルティングは、2023年4月からはオンラインで受けることも可能になった。
キャリアコンサルティングを受けた後、受講開始日の1か月前までに以下の書類をハローワークに持参し、提出する。原則として、郵送はできない。
①受給資格確認票
②キャリアコンサルティングを受けて交付されたジョブ・カード(オンラインでコンサルティングを受けた場合は、メールなどで送付される)
③過去に専門実践/特定一般教育訓練給付を受給したことがある場合は、再受給時報告
<自分で用意する書類>
④マイナンバーカード(ない場合は、マイナンバーが記載された住民票の写しまたは通知カードと、運転免許証など)
⑤縦3センチ×横2.4センチの顔写真2枚
⑥給付金を受け取る金融機関の通帳またはキャッシュカード
特定一般教育訓練の場合
専門実践教育訓練と同様に、事前にハローワークかオンラインでキャリアコンサルティングを受ける必要がある。キャリアコンサルティングを受けた後、受講開始日の1か月前までに以下の書類をハローワークに持参し、提出する。原則として、郵送はできない。
①受給資格確認票
②キャリアコンサルティングを受けて交付されたジョブ・カード(オンラインでコンサルティングを受けた場合は、メールなどで送付される)
③過去に専門実践/特定一般教育訓練給付を受給したことがある場合は、再受給時報告
<自分で用意する書類>
④マイナンバーカード(ない場合は、マイナンバーが記載された住民票の写しまたは通知カードと、運転免許証など)
⑤給付金を受け取る金融機関の通帳またはキャッシュカード
【受講後に必要な手続き】
どの教育訓練も、受講修了日の翌日から1か月以内に、本人がハローワークに以下の書類を提出する。専門実践教育訓練の場合は、受講開始日から6か月ごとの期間の末日の翌日から1か月以内。原則として、郵送はできない。
一般教育訓練で必要な書類
①教育訓練経費等確認書
<教育機関が発行する書類>
②支給申請書
③修了証明書
④領収書
⑤教育機関から入学金や受講料のキャッシュバックを受けた場合、教育機関が発行する返還金明細書
<自分で用意する書類>
⑥マイナンバーカード(ない場合は、マイナンバーが記載された住民票の写しまたは通知カードと、運転免許証など)
⑦給付金を受け取る金融機関の通帳またはキャッシュカード
専門実践教育訓練で必要な書類
①受給資格者証
<ハローワークから受け取り、記入する書類>
②教育訓練経費等確認書
③最後の支給単位期間の場合、最終受給時報告
④訓練終了後、資格を取得したことによって受給する場合は、追加給付申請時報告
<教育機関が発行する書類>
⑤支給申請書
⑥修了証明書
⑦領収書
⑧教育機関から入学金や受講料のキャッシュバックを受けた場合、返還金明細書
⑨資格を取得したことによって受給する場合は、資格取得を証明する書類
特定一般教育訓練で必要な書類
①受給資格確認通知書
<ハローワークで受け取り、記入する書類>
②教育訓練経費等確認書
③受給時報告
<教育機関が発行する書類>
④支給申請書
⑤修了証明書
⑥領収書
⑦教育機関から入学金や受講料のキャッシュバックを受けた場合、返還金証明書
<自分で用意する書類>
⑧マイナンバーカード(ない場合は、マイナンバーが記載された住民票の写しまたは通知カードと、運転免許証など)
教育訓練給付金の申請の注意点
受講開始前の準備が必要
講座によっては、講座申込時に、教育訓練給付制度を利用する旨を教育機関に申し出ておく必要がある。
さらに、専門実践教育訓練、特定一般教育訓練の場合は、ハローワークかオンラインでのキャリアコンサルティング、ハローワークへの書類の提出を受講開始日の1か月前までに完了させる必要もあるため、早めの準備を心がけたい。
資格取得と教育訓練給付金の受給条件は別物
資格取得のための講座を受講する場合、給付金受給のための修了条件に必ずしも資格取得が含まれていない。期限内に講座を受講・修了すれば給付金を受け取れるため、資格取得に至らなかったり、資格取得はまだ先だったりしても、講座修了の認定は受けておきたいところだ。
注意が必要なケースとして、修了を認定されるには、教育訓練給付制度の利用者だけに課せられた試験や添削課題に、期限内に取り組まなければいけない場合がある。
例えば筆者が通っていた米国公認会計士予備校だと、修了認定条件として「添削問題を所定の期間内に提出し、全科目100点満点中70点以上の成績を収めること」という決まりがあった。
資格取得までのスケジュールとは別に、給付金受給のための期限や条件を確認し、計画的に学習を進めることが大切だ。
教育訓練給付金を1度受給すると、3年間は受給できない
教育訓練給付金は、何回でも受け取ることが可能だが、1度受給すると、その後の3年間は、講座を受講しても教育訓練給付金の対象とはならない。よって、複数回利用したい場合、前回の教育訓練給付金の受給日から、次の講座の受講開始日までに、3年以上、期間を空ける必要がある。
なお、受講開始日とは、通学制の場合は講座の開講日、通信制の場合は、教材などの発送日で、いずれも教育機関が証明する日となる。自身が初めて講座に出席した日や、初めて通信制講座を受講した日ではないので、その点も注意が必要だ。
教育訓練給付金を申請すると会社にばれる?
教育訓練給付金の申請や受給にあたって、会社に書類を提出したり、発行してもらったりすることはない。そのため、給付金の受け取りが会社に知られることはなく、転職を見据えたリスキリングを考えている人も安心して利用できる。
なお、手続きの際には、雇用保険の被保険者番号の記入も求められる。この番号が記されている雇用保険被保険者証は、会社が保管している場合も多いが、厚生労働省雇用保険課によれば、「被保険者証が手元になくても、マイナンバーカードなどの本人確認書類があれば、ハローワークで被保険者番号を確認できる」という。
リスキリングの政策強化に伴う2023年度の動向
岸田政権はリスキリング支援を強化する方針を打ち出しており、これまで「3年で4000億円」としてきた人への投資関連の政策規模を「5年で1兆円」に拡充する方針を示している。
2023年度予算でもリスキリング支援のための予算が増額され、教育訓練給付金もその対象となっている。その拡充内容についてもお伝えしておきたい。
①オンライン・土日・夜間講座の増加
国は、仕事と受講の両立をしやすいよう、オンライン・土日・夜間講座の指定も積極的に進めている。4月1日付で、専門実践教育訓練でのべ90、特定一般教育訓練で同107のオンライン・土日・夜間の講座が指定されることになった。
たとえば、オンラインで受講できるビジネス・ブレークスルー大学(東京・千代田)の「デジタルファーストキャンプ」や、データサイエンス研究所(東京・千代田)の「データ分析力養成講座」、平日夜間や土日に受講できるデータミックス(東京・千代田)の「HR(human resource)アナリスト養成講座」などが新たに指定された。
②デジタル関係講座の充実
デジタル分野のリスキリング支援にも力を入れる。4月から、デジタル関係の講座を中心に、受講生の習得状況や希望に応じて、カリキュラムの一部で選択科目を履修できるようになり、その選択科目も教育訓練給付金の対象講座となった。これによって、仕事とより関連させた学びが可能になる。
厚労省若年者・キャリア形成支援担当参事官室の担当者は「たとえば、データサイエンスを学ぶ通年の講座の一部で、『商売におけるデータサイエンス』や『農業に活用できるデータサイエンス』など、受講生個人の仕事の分野に特化した科目を選択できるといった運用を想定している」と話している。
まとめ
リスキリングを検討している人にとって費用面での助けとなる教育訓練給付金について、対象講座から具体的な手続き方法、注意点、新しい制度の動向まで解説した。4月からの新たな仕事や環境にも慣れ始め、学び直しへの関心も高まる時期。制度をうまく使って、スキルアップやキャリアアップに役立てていただきたい。
ライター 吉川真布(株式会社Linkard)