アメリカンなSUV、納車2年待ち 光岡自動車の脱・欧風
光岡自動車(上)
ヒットの原点エンジンは作らない
ヨーロッパ風クラシックカーはもともと創業者の好みだ。英国の「モーガンモーターカンパニー」製の古風なモデルを愛車として乗り回していた。ロングセラーのコンパクトセダン「Viewt(ビュート)」やオープンカー「Himiko(ヒミコ)」も欧州流のデザインだ。

コンパクトセダン「Viewt(ビュート)」は欧風クラシックカータイプ
真逆ともいえそうなアメリカンSUVの企画は、さぞや社内で反対を受けたかと思えば、そうではなかったようだ。「発想をつぶさず、発案者に任せてくれる。風通しがいい」。渡部氏は光岡の自由な社風をこう言い表す。07年に売り出したスポーツカー「大蛇(オロチ)」は日本神話に由来するイメージで、これも欧風とはかけ離れていた。
光岡流の懐の深さは車種にも表れている。光岡は一般ユーザー向けの乗用車だけを作っているメーカーではない。意外なところでは、霊柩(きゅう)車がある。トヨタのミニバン「アルファード」「ヴェルファイア」などをベースに、オリジナルのボディーや内装を用意している。乗用車メーカーが霊柩車を製造するのは珍しい。「職人の手仕事に強みがあり、霊柩車でもそのノウハウが生かせる」(渡部氏)。
光岡は自動車メーカーだが、エンジンは作っていない。エンジンをはじめとする主要部分はトヨタや日産自動車のような大手メーカーに頼っている。
パーツの提供を受けているわけではなく、新車を購入して、ベース部分を生かしたまま、ボディーや内装を自社製に置き換えるという、大がかりなカスタマイズだ。たとえば、「バディ」のベース車はトヨタの「RAV4」。「定評のあるベース車を使うことによって、光岡は得意のボディーや内装に特化できる。先進的技術を投入したベース車への信頼感は大きな強み」と、渡部氏はメリットを語る。

光岡自動車の渡部稔執行役員
ベース車に選ばれている大手メーカー側にすれば、自社の基幹技術を、他社に使われている格好だ。換骨奪胎的な手法にベース車メーカー側から不満を抱かれはしまいかと心配にもなるが、「正式なクレームを受けたことはない」(渡部氏)という。この手法による光岡の生産台数はそのままベース車メーカーにとっての「新車販売台数」となるわけで、大口顧客としての存在感は小さくない。つまり、双方にメリットがある関係だ。
顧客層の若返りも、「バディ」は呼び込んだ。これまでの光岡車では40~50代の夫婦層が主な買い手だったが、「バディ」では「アクティブな30代の購入ケースが増えた」(渡部氏)という。
欧風クラシックカーというイメージが固定するのは、顧客層の年齢高止まりにつながりやすい。これまで光岡ブランドに興味を示さなかった乗り手を呼び込むうえで、今回の「バディ」投入はプラスに働いたようだ。