アメリカンなSUV、納車2年待ち 光岡自動車の脱・欧風
光岡自動車(上)
ヒットの原点国内で10番目の乗用車メーカー
「車選びは妥協の産物になりがち。性能には満足できても、デザインが不満といった『あちらを立てれば、こちらが立たず』の状況に陥りやすい。エンジンをはじめとする基幹部分は大手メーカーで、ボディーや内装は光岡というコンビネーションなら、妥協を減らしやすくなる」。渡部氏は購入者から支持される理由をこう読み解く。

「バディ」のタフな面構え
「バディ」のヒットはこの見立てを裏付ける。知名度や信頼感の大きい「RAV4」の骨組みに、アメリカンスピリットが宿った構図で、和洋の「いいとこ取り」ともいえるだろう。
四半世紀を投じて、試行錯誤を繰り返しながら練り上げてきた手法だ。原点となったのは、エンジンを除くほぼすべてを自前で作り上げたオリジナルカーの「Zero1(ゼロワン)」。96年に国の型式認定を取得し、光岡は公式に「乗用車メーカー」として認可された。国内で10番目の乗用車メーカーが誕生した瞬間だ。「ガワ(ボディー、内外装)だけではない、ちゃんとしたクルマづくりの技術力を証明できた」と、渡部氏は意義づける。
単なるカスタムカーに終わらないものづくりマインドは電気自動車(EV)の分野でも新モデル開発につながった。3輪の2人乗りEV「Like-T3(ライク・ティースリー)」は東京消防庁向けに改造を施した。後部には消火器やホース、自動体外式除細動器(AED)を搭載している。「EVの普及が進んで、ベース車が増える中、光岡がチャレンジできる余地が広がってきた」と、渡部氏は今後に期待をのぞかせる。
クルマの役割や立ち位置を見直したのも、「バディ」がヒットした理由だろう。従来の欧風クラシックカータイプはパーソナルユースの趣向が強かった。しかし、「バディ」は「相棒」という意味の名前が示す通り、アウトドアを含む様々なプレジャーの体験を、家族や仲間と分かち合うのを応援してくれるような存在。「人生のストーリーが生まれるのに立ち合うようなクルマを提案したかった」と、渡部氏は開発意図を明かす。

「バディ」はアウトドアで使いやすい
カスタムカーは顧客の注文を受けて手を加えるだけに、趣味性が強く出やすい。ディーラー、カスタム業者として、オーナーのこだわりに接してきた光岡は自動車好きの心理を見抜くインサイト(洞察)にたけている。思い切った路線変更にもみえる「バディ」の投入にあたっても、「マーケティングリサーチに頼らず、自分たちで今の時代に面白そうだと感じたクルマを提案した」(渡部氏)。
カスタマイズカーの大規模展示会「東京オートサロン」はかつては「改造車のイベント」とみられがちだったが、今では自動車関連では国内最大級のイベントに育った。22年で40回目を迎えたオートサロンの定着ぶりはマイカー文化の多様性も映し出す。市販車のおしきせではない、自分らしいクルマを求める意識は、光岡の背骨も支えているようだ。