会社員はご免 上智大のイベントで培った起業への思い
新居佳英・アトラエCEO(下)
リーダーの母校入社3年目でグループ会社の社長を任せてもらえました。優秀な人が多く、皆がむしゃらに仕事をしている中で私が抜てきされたのは、1年目から経営陣に「どうしてそういう戦略にしたのか」などと食い下がり、ファイナンスもマネジメントも一生懸命勉強していたので、やらせてみようと思ってくれたのでしょう。
2003年に独立し、前出の平井誠人氏と会社を立ち上げました。ただ当初の3年間は、今で言うデジタルサイネージ(電子看板)などを手がけましたが、なかなかうまくいかず、どうしたら成長の軸となるビジネスモデルを作れるか、四六時中考えていました。夜中でも思いついたビジネスプランを枕元の画用紙に書き留める毎日で、全部で100個以上書いたでしょうか。前職のインテリジェンスのHR(人事管理)領域には遠慮があったのですが、餅は餅屋。どうしてもHR領域のことばかりアイデアが浮かびます。そこでHRとテクノロジーを掛け合わせれば全く新しいことができるだろうと考え、当時の代表に義理を通した上でIT業界向けの成功報酬型求人メディア「Green(グリーン)」を立ち上げました。これがようやくヒットし、成長の起爆剤になりました。
アトラエは16年に東証マザーズに上場、18年に東証1部に市場変更、21年6月にはシニア向けジョブ型マッチングアプリ「Inow(イノウ)」をローンチするなど成長を続けている。一方で、世界約60カ国で従業員の意識を調査する「Great Place to Work Institute」の「働きがいのある会社」ランキングで連続上位入賞するなど、組織運営の面からも注目される。
社名のアトラエ(Atrae)は「魅了する」、「引きつける」の意味をもつスペイン語の動詞atraer(アトラエール)からつけました。目指しているのは、世界中の人々を魅了する会社を創ることです。
上智大時代に設備関連のアルバイトをしているときも、ダラダラ仕事をしている人たちがもどかしかったですし、つまらなそうな顔で通勤電車に乗っているサラリーマンにはなりたくなかったので、就活の面接では「もっと楽しく仕事したい」と言いました。すると「仕事は遊びじゃない」と返されました。「遊ぶように働きたい」と言えば「学生気分が抜けてないね」と。私は納得できませんでした。だからこそ社員とともに遊ぶように働き続けられる会社を作って、それが可能であることを証明しようと思ったのです。
当社の特徴であるフラットな組織も、世の中の会社には部長、課長、係長がいるけども、なんでそんな面倒くさい階層があるのかという疑問が出発点でした。世の中のサラリーマンが楽しくなさそうなのは、上司の指示を仰がなくてはならないし、給料も等級別に決まっていて頑張ってもなかなか上がっていかないからじゃないのか。そんな疑問を口にしても、大抵「会社ってそういうものだから」でごまかされ、誰も納得できる理由を話してくれません。だったらそんなたいして意味もなさそうな役職など全部やめてしまって、みんなで対等に議論し、スポーツのチームやオーケストラみたいに全員が本気でチームの夢を追いかけられる、そんな理想の組織を作ろうと思いました。
「世界中の人々を魅了する会社」というビジョンには2つの意味があります。会社が生み出すサービスが魅力的であること。同時に、働くメンバーが愛してやまない、周囲の人も思わずファンになってしまうような会社であることです。売り上げ規模が大きいとか、成長している会社は他にもあるでしょうが、私たちはこのビジョンで勝負したい。決して絵空事ではありません。いまは極東アジアの一企業ですが、グローバルに進出し、世界的なレベルでもキラリと光る会社を目指します。10年と言わず、3年から5年でそこに名乗りを上げたいと思います。
(ライター 石臥薫子)