国家公務員中途採用のリアル 民間経験の生かし方は
あしたのマイキャリア――選考で印象に残っていることはありますか。
「グループディスカッションのような政策課題討議試験では、公共的、つまり『皆のためになるようにするにはどうしたらいいか』という観点から課題が出されたことが印象的でした。民間企業であれば『顧客にどうアプローチし、顧客満足と利益を両立させるか』が重要ですが、社会全体にとって何が最適解かという観点から討議したのが印象に残っています」
「官庁訪問は実際に国土交通省に出向いて、最終面接をするようなイメージです。志望動機や経歴、入省したら何をしたいかについてアピールしました。何をしたいかといっても、新卒採用と異なり、『色々と挑戦したい』というよりは、民間企業での経験を国家公務員の仕事にどうつなげ、生かせるかが鍵となると思います。それが先方の求める人材像とマッチするかどうかが重要です」
――具体的に、どのようなアピールをしたのですか。
「2点アピールしていました。1点目は、『日常的に利害関係者間の調整を行ってきた』ということ。民間企業ではメーカーの事務方として、技術畑の様々な分野の専門家と調整し、方針を取りまとめ、顧客と折衝していく役割を担っていました。各分野の専門家を相手に、どうすれば自分の話を聞いてもらえるかを普段から考える癖がついていたので、そうした経験をアピールしました」
「2点目は、コスト感覚を積んできたということ。1つのプロジェクトに誰がどのように関わり、これと連動してどのような費用が発生するかを、身をもって体感してきた点をアピールしました」
民間企業での経験を踏まえ、役所の作法を身につける
――実際に国家公務員として働いて、民間企業との違いに戸惑ったことはありましたか。
「最も戸惑った点は、仕事の価値の尺度が変わったことです。民間企業ではコストに対する価格があり、それに対してお客さんが喜んでくれ、会社も回っていく、ということが価値の尺度でした。しかし国家公務員の仕事ではそうした物差しがなくなり、自分の携わっている仕事が誰の役に立っているのか、お客さんの反応やお金ではない部分で測らなければなりません。その難しさを感じました」
「では、どこに価値を見いだしていくかということですが、一概に決めづらく、ケース・バイ・ケースだと感じています。1つの仕事に対して様々な面や見方があるなかで、どの立場から見ても妥当だと思える決着点を見いだしていく。それがやりがいにつながると思います」
「14年に入省しましたが、いまだに仕事の進め方に慣れていないと感じることもあります。ある仕事では地元自治体、ある部署では国会議員、また別の仕事では他省庁の意向を重視するなど、担当部署によって力点を置くところが異なります」
――民間企業と変わらない点は。
「『仕事は人と人との関係で成り立っている』ということです。調整の始まりは、人に何かをお願いすることと、されること。自分がされていやなことは相手にしない。逆に、されてうれしい対応は相手にもどんどんやっていくと、人間関係、ひいては仕事が円滑に進みやすくなるという点は、民間時代から感じてきましたが、そうした基本的な部分は何ら変わらず、お願いする相手にどういうメリットがあるか、なぜこのお願いをあなたにするのか。そういう説明を尽くす、タイミングをみるといった点は、民間でも役所でも同じだと思いました」