スキルある40、50代の転職活況 「年齢の壁」消える?
23年度の転職市場予測(後編)
あしたのマイキャリア
写真はイメージ(PIXTA)
新型コロナウイルス禍による採用控えの反動から、企業の採用意欲は上昇しています。スキルや経験を持つ人材であれば40代、50代でも受け入れる企業は増えており、転職の「年齢の壁」は消えつつあります。この活況は今後も続くのか。2023年度の転職市場動向を人材エージェントのコンサルタントに聞きました。前編の「採用活況の転職市場 23年度の動向を専門家に聞いた」では、「金融」「コンサルタント」「IT(情報通信)・Web業界」でしたが、後編は「メーカー(自動車、電機)」「商社・流通」「ベンチャー領域」です。
メーカー(自動車、電機)国内回帰で求人増、規定超の年収も
メーカー(自動車、電機)の転職事情に詳しいSMBCヒューマン・キャリアの櫻井剛氏に聞きました。

SMBCヒューマン・キャリア東京職業紹介部の櫻井剛部長 大学卒業後、三井住友銀行に入行。31年間、国内業務に従事し、法人・リテールの両面を経験。支店長を務める。2020年4月、SMBCヒューマン・キャリア入社
――2023年度の求人数の推移は。
「自動車業界、電機業界では、2023年度の求人数は増加すると見込んでいます。かつて日本の製造業は安い労働力や販売市場を求めて海外に生産拠点を移しましたが、ここ数年、国内に戻す動きが出てきています。それに伴って求人案件は増加傾向です」
「国内回帰の背景には、コロナ禍で顕在化したサプライチェーンのリスク、海外人件費の上昇などがあり、さらに22年後半に加速した円安が後押ししたかたちです。エネルギー高、原材料費の高騰など、製造業を取り巻く環境は順風ではありませんが、アフターコロナの本格稼働に向けた勢いを感じています」
――採用意欲の強い企業の傾向は。
「私が担当する名古屋エリアは、自動車、電機の大手企業から、2次請け、3次請けの中堅・中小企業が集積しています。規模を問わず、採用意欲の高さは全国トップクラスといえるでしょう。今求められている職種や経験は、社内SE、SIer経験、経営企画、新規事業の立ち上げなど。設計、エンジニアは恒常的に求人があります。業界内で新しい技術競争が進むなか、需要があるのは高い専門性を持った即戦力人材です。当社が得意とする管理部門では、生産管理・品質管理の管理職や工場長、海外子会社の社長候補、経理・総務の管理職の案件が増えています」
――採用難が続くなか、提示年収は上がっていますか。採用基準に変化は。
「求人案件の年収レンジは横ばいではあるものの、年収レンジの上のほうで決まる人が増えている印象で、転職によって50万円程度の上昇があるとみています。また、重要なポジションであれば求人企業の社内規定を超えて、2000万円超の年収を提示されるケースがあり、メーカーでも給与体系が柔軟になってきました」
「採用基準については即戦力重視です。スキル・経験の合致は厳しく求められますが、半面、即戦力であれば年齢は関係ない傾向になっており、かつて転職市場でいわれた『35歳の壁、45歳の壁』はなくなったと考えています。選考では、人物面をみるため適性検査を課す企業が増加。ハイブリッドワークが進み、自律的に業務を進められる人材かどうかなどの判断材料にされています」
「近年、異業界転職が増えていますが、メーカーの場合は業務経験を重視する傾向が強く、同業界や近接業界からの流入・流出が多いです。管理部門などを除くと、異業界からメーカーへの転職はかなり難しいと思います」
――気になる業界のトピックは。
「ニュースでは世界的な半導体不足やパーパス経営などが話題ですが、人材の現場としてはミドル・シニアの活用が気になります。人材難、事業承継難は、製造業界に限らず、日本産業界の長年の課題です。最近はシニア人材や外国人人材の登用を始める企業が増加しており、新しい人材活用として注目しています」