フリーランスの不安はアクションで吹き飛ばせ
あしたのマイキャリア
ランサーズCOOの曽根秀晶さん
会社勤めから解放されて、自由に働けるフリーランス。周囲を巻き込んで成長できれば、理想的です。ただ、安定して仕事が取れるだろうかという不安もつきまといます。コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニー、楽天を経て、クラウドソーシング大手のランサーズで最高執行責任者(COO)を務める曽根秀晶さんをゲストに迎えて、転職サイト「日経転職版」は、特別セミナー「ランサーズCOOとキャリアの未来予測!これから必要とされる 仕事と人材」を開催しました。フリーランスの最前線に精通する曽根さんに、人工知能(AI)時代のキャリア形成術を探ってもらいました。(聞き手は、法政大学教授でプロティアン・キャリア協会の代表理事も務めるタナケン先生こと、田中研之輔さん)
タナケン先生 フリーランスを取り巻く状況について、どのように考えていますか。
曽根さん 15年ほど前なら、フリーランス=フリーターと思っている人もいたと思います。現在は、新卒フリーランスや親子フリーランスといった言葉が出てくるほど、時代が変わりました。フリーランスを考えるとき、キーワードとなるのが「株式会社自分」です。副業を持っていたり、兼業していたり、あるいは組織の外で能動的に活動をしていたりする人は、それぞれフリーランス的な株式会社自分をもっています。
タナケン先生 株式会社自分の具体例を紹介してください。
曽根さん こちらに示した「とっとこランサー」さんは、元エレベーター技師です。2015年にランサーズを知り、自分の力を試してみようと始めたライター業で、月20万円の報酬を得るようになりました。その後、記事を執筆する人に対するコンサルティングでの収入が本業を超えたため、独立しました。仕事が増えて、ひとりでは受けきれなくなり、フリーランスを何人か抱えたチームを作って法人になりました。

彼は、いきなりフリーランスになるのではなく、まずは副業から始めて少しずつステップアップし、周囲を巻き込んで成長を遂げて、最後は法人を設立しました。株式会社自分のロールモデルでしょう。
タナケン先生 曽根さんは「人生を振り返って、指名されたことありますか」と問いかけています。会社生活だと、どのような場面を指すのでしょうか。
曽根さん 会社や組織で働く皆さんは、個人として指名を受けた仕事があるかどうか、振り返って下さい。あなたではなくてもできる仕事、たまたま引き受けた仕事が、結構あるのではないでしょうか。自分だからこそ受けられる、つまり指名された仕事だと思った瞬間に、発想が変わるはずです。もし指名されたことがないのなら、指名されるように行動を変えていけばいいのです。
タナケン先生 指名されるようなスキルを身につけるために、きょうからできることは何ですか。
曽根さん 自分もやっているのですが、まず、自分のスキルを紙に書き出してください。「何をしてきたのか」「それがどんなスキルにつながったのか」というリストを作ってみてください。次に、その中で掛け算してください。例えば「営業を10年やっていました」では、どんなスキルがあるのかわかりません。テレアポなのか、トークスクリプトなのか、特定の業界に強いとか、有形の商材に詳しいとか、営業を因数分解したリストを作成したうえで、リスト上のスキルを掛け算するのです。
タナケン先生 個人が持続的なキャリアを形成するためには、何が重要ですか。
曽根さん リスト化に取り組んだときに、何かしらのキーワードやタグが出てくるはずです。私の場合は「ベンチャー、コンサル、海外チャレンジ、フリーランス」でした。出てくるタグは、人によって様々だと思います。まずは、タグを選んで、タグに沿って行動してください。できれば、コンテンツを作ってアウトプットしてみましょう。

私の場合は、自分の経験をコンテンツとして世に出してみたら、それを見た人から、イベントで登壇してほしいと言われて、仲間が増えていきました。仲間によって「曽根さんが登壇して、こういう話をするらしいよ」という情報が流通するようになり、もう少し大きい場所で話してみませんかという次のチャンスに出合いました。いくつか機会を経験すると能力がアップデートされて、新たなタグが生まれます。経験とチャンスと能力が、ぐるぐる回るイメージです。
タナケン先生 生成AIが注目されています。個人のキャリア形成に、どのような影響を与えそうですか。
曽根さん 生成AIが普及したとき、最後まで残る分野は何かと考えると「問題を設定する」「仮説を作る」「実行して責任を負う」がコアになると思います。問題を設定して仮説を作る生成AIの能力は、どんどん向上していきます。すると、最後に残るのは「覚悟をもって決める」能力になるはずです。一般的な答えはAIがいくらでも出してくれるので、覚悟をもった意志が、いっそう重要になるでしょう。
一方で、生成AIは武器になります。生成AIに仕事を奪われるのではないかという心配を耳にしますが、生成AI自体ではなく、それを使いこなす人に仕事を奪われるのです。生成AIを使いこなす人は、どんどん生産性を上げて、新しいことに挑戦していきます。こういった背景を理解したうえで、自分のキャリアをアップデートしていく姿勢が大切になります。
タナケン先生 フリーランスに挑戦するときの不安感は、どうすれば払拭できますか。
曽根さん フリーランスの不安は、「仕事がとれない」「不安定」「信用力がない」の3つに要約されます。不安を払拭するには、アクションを起こせばいいのです。
スキルや学びは、右肩上がりではありません。上がったり、横ばいになったり、S字カーブの連続のような形になったりして、向上していきます。私自身のキャリアを振り返ると、失敗はチャレンジしたから起きたし、失敗の経験は、次に生かせました。だから、チャレンジしないという選択が、一番よくないです。次いで、右肩上がりだったスキルアップが停滞したり、下がったりしていることに気付かない状態も、危険信号です。
タナケン先生 フリーランスをめざす人に、どんなメッセージを送りますか。
曽根さん 人生100年時代といわれ、将来を見据えたキャリア戦略が必要になりました。一方で、変化はますます早くなり、正解が見通せません。自由な働き方を選べる場面が増えていますが、不安は自由の裏返しでもあります。不安を吹き飛ばすためには、こうなりたい、こうしていくという意志の力が大切です。人生を自らデザインするオーナーシップを持てば、幸せを実感できるでしょう。