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無形価値を可視化する経済学

本連載の3回目、不動産オークションの重要な要素の一つとして「売り手の信頼」を記載しました。そこでお話ししたのは、「売り手」にとって、その不動産の価格決定にはある種の根拠が必要だということです。その根拠とは、過去のオークションデータから各購入検討者がそれぞれの最大支払意思額を提示する仕組みかどうかを明らかにすることです。とある不動産に価格がついたとして、その価格が各検討者の最大支払意思額であることを示す必要があるということです。

そこで私たちが行ったのが、経済学の活用でした。つまり、最高値(最大支払意思額)での売却を実現する仕組みづくりとそのプロセスの可視化です。なぜその価格で売却されたか、そしてなぜその価格が最高値だと判断したか。私たちはこうした疑問に対して、頑健な説明を用意しました。そしてこのサービスのあり方は今、新たな「売り手の信頼」を体現するものとして注目を集めていくと確信しています。

ただ、残念なことに、私たちがもっとも重視したこの「頑健な説明」は、まだ、多くのサービスでは軽視されているとしかいえないのが現状です。実際、「売り手の信頼」を軸につくられ提供されているサービスはごく一部しかありません。

しかし近い将来、様々なサービスにおいて、根拠を基にした頑健な説明が重要視される時代は必ず来ます。情報過多・玉石混交の時代だからこそ、必然性は高まってきます。

社会的インパクトを求める

非財務情報に話を戻しましょう。ときに非財務情報は、財務情報以上に人々の暮らしを守る重要な指標ともなりえます。成熟した現代社会において、金銭価値では測れない様々な投資が存在するからです。

とある街の商業施設を例に、考えてみましょう。その施設は、所有者から見ると赤字垂れ流しとなっており、このまま続けていくことのメリットは何もありません。しかし、それでも所有し運営している。それには、当然ながら理由があります。それは、負の社会的インパクトという視点です。

一般的な財務的な視点で見れば、その施設・設備及びその関連からの収益で、継続か、拡大か、あるいは撤退かという判断が下されることになります。当然、収益が見込めず、所有し続けることで赤字が膨らむようであれば、撤退もやむをえない、となるでしょう。

しかし、「赤字ならば、撤退しても仕方ない」とは言い切れません。その施設・設備が撤退することにより波及する社会的インパクトを見る必要があるからです。

その施設・設備がなくなることにより、その施設で働いていた人の働き口がなくなります。商業施設であれば買い物難民、交通機関であれば移動難民が出てしまうかもしれません。つまり、投資的観点では見えてこない様々な経済的価値に影響が起こるのです。

今、日本、とくに地方には、様々な第三セクターなどでも維持するためにかかるコストを見れば、撤退しかない施設はたくさんあります。こうした経済的価値を可視化することができれば、存続か撤退かという判断にも影響が出るのではないでしょうか。あるいは、それでも売却するとなった場合でも、この波及効果の価値が金銭価値化できれば、売買金額、あるいは売却時期に、多少なりとも影響が出るはずです。必然性の高い施設や機関であれば、経済価値を可視化すればクラウドファンディングなどでも指標でアピールすることができる。鉄道のローカル線の存続が危ぶまれる今、第三者の視点から存在価値・投資価値を判断する仕組みの構築は急務であるといえるでしょう。

経済学には、こうした、可視化されていない経済的価値を金銭価値化するために活用できる分析手法の膨大な研究があります。古くから様々な公共的価値を測る手法を研究されているのです。求められるのは、それらの研究の中から、その場面に適した分析手法を選択し、当該事象に照らし合わせたうえで分析すること。その出発点はやはり、分析手法が存在することを知っているかどうかです。

不動産価値を不動産鑑定士が鑑定評価するように、非財務価値・非金銭価値を経済学者の分析で可視化する。この分析手法のエビデンスがきっちりしているかどうかが公共性に影響が出ます。

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