シリコンバレーで働く日本人PdMが解説 プロダクトマネジメントってどんな仕事?
米リンクトイン 曽根原春樹氏
職種&スキルの図鑑
NIKKEIリスキリングの連載「職種&スキルの図鑑」では、注目の職種で活躍している人に、どんなスキルが必要なのか、どうすれば身につくのかを聞き、関連するスキルも解説する。今回は最近耳にする機会が増えた「プロダクトマネジャー」について、前編と後編に分けて取り上げる。
解説してくれるのは、米マイクロソフト傘下でビジネスSNSのLinkedIn(リンクトイン)米国本社でプロダクトマネージャーとして活躍する曽根原春樹氏。プロダクトマネジメントに関する著書や講座も世に出してきた同氏が、実際のプロダクトマネジャー(PdM)の仕事内容、必要なスキルやマインドセットについて解説する。
※米国はじめ海外ではプロダクトマネジャー=「PM」の表記を使用するが、日本ではPM(プロジェクトマネジャー)と表記を分けるためにプロジェクトマネジャーの略称として「PdM」の表記がよく使用されている。本稿でもPdMと表記する。
プロダクトマネジャーが注目される背景
はじめに、そもそもなぜプロダクトマネジャーという職種が注目されはじめたのか、その背景についてお話しします。
一番大きな時代の転換点は、スマートフォンとモバイルアプリのエコシステムの台頭です。スマホの中に入っているアプリケーションは、時にユーザーの人生になくてはならない存在になってきています。私自身、TwitterやYouTube、LinkedInといったアプリを10年以上使っています。アプリケーション、広く言えばデジタルプロダクトが欠かせない存在になっている時代なのです。
では、企業がデジタルプロダクトを作って出せば使ってもらえるかと言うと、そうではありません。ユーザーにとって価値あるプロダクトになるように、新しい体験や施策を考え、アップデートすることで、ユーザーが増えていく。こうした仕掛けを作っていくのが、プロダクトマネジャーの仕事です。
昔から製造業を含めプロダクトを作る人たちはいました。そこで採られていたのは、基礎技術から製品を設計し、それを生産して営業し、ユーザーに届けるといった、縦割り組織を前提としたプロセスです。
一方、プロダクトマネジャーがいる世界でのものづくりは「そもそもユーザーは何に困っているのか」から始まります。そしてPdMが中心に立ち、「どういった体験ならユーザーの問題を解決できるか」の意思決定をし、あくまで技術はその実現手段にすぎません。そこでは開発者や営業など様々なステークホルダーの観点、そしてユーザーの理解が必要になりますが、それぞれとコミュニケーションをとりながら最適化していかないといけません。ユーザーの課題を解決でき、ビジネスとして成り立つプロダクトの形を、あらゆる方法で模索しまとめあげるのがプロダクトマネジャーなのです。
さらに現在、プロダクトマネジャーという職種がアプリやデジタルプロダクトにとどまらず広がりを見せているのは、レガシーな業界にもデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れが来ているから。
DXの本質は、デジタル技術を使うことによって、企業が提供する価値やビジネスの仕方を根本的に変えることにあります。これはある意味、ソフトウエアを起点にデジタルプロダクトを作ることと同義です。だからこそ、DXの現場でもプロダクトマネジャーのスキルが生きると言えるでしょう。
シリコンバレーのPdMとして向き合う課題
私は現在シリコンバレーのリンクトイン米国本社で、プロダクトマネージャーとして働いています。リンクトインはプロフェッショナルのためのSNSで、その中で僕はユーザー同士がメッセージをやり取りする「メッセンジャー」機能のプロダクトマネジメントチームにいます。
リンクトイン以前にも、シリコンバレーでPdMとして10年以上実践を続けてきました。その一方で、日本では動画学習サービスのUdemy(ユーデミー)でプロダクトマネジメントに関する講座を入門から実践に至る10講座を展開し、総受講者数がおよそ2万人となりました(2023年5月現在)。さらに書籍『プロダクトマネジメントのすべて』(翔泳社)を執筆し、『ラディカル・プロダクト・シンキング』(同)を監訳したりと、プロダクトマネジャーを後押しする活動をしてきました。また、企業の顧問としてプロダクトマネジメント実践の支援も行っています。
こうした活動のきっかけには、日本のプロダクトマネジメントに対する危機感があります。世界時価総額ランキングにおいて、1990年代にはトップ50に30社ほど入っていた日本企業ですが、現在は1社もランクインしていません。現在のトップランナーはデジタルプロダクトを活用してビジネスを成功させている米国や中国の企業がほとんどなんです。私自身、シリコンバレーで、そういった企業がどういう風にプロダクトを作っているか目の当たりにし、その強さを肌身で感じます。