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明らかに失敗する方法はわかる

私自身、2018年から運営している不動産オークションで、オークション理論を活用しています。経済学者と一緒に実装に着手した際には、たくさんの発見がありました。その中でも、一番大きかった気づきは、ビジネスに経済学を活用するということに対する「気持ちの部分」です。

実は、私はその事業に参画した当初から、「オークション理論を活用し、オークションの精度を上げたい」と言い続けていました。しかし、「不動産売買に、同じものは1つもなく、あてはめられる公式があるとは思えない。学問を活用することは難しい」というような声が強く、なかなか活用に踏み切れずにいました。多くのビジネスパーソンは、「経済学」の研究や活用方法を知らないことを思えば、当然の答えだったのかもしれません。一方で、2000年代前半から行っていた不動産オークションでは多数の失敗をしていました。その失敗について調べてみると、大半のことが研究されていたのです。要するに、事前にそうした研究を知っていれば、その方法は採用していないし対応策を準備できたわけです。

実際のところ、「経済学」を取り入れれば、たちどころに成功する方法がわかるわけではありません。しかし、しかし、明らかに失敗する方法はわかる。それを選ばないだけで成功確率は格段に上がります。

経済学者との深い議論が可能に

ここにも皆さんに「経済学」をビジネス教養として身に着けていただきたい理由があります。経済学者と円滑なコミュニケーションという側面です。例えば、「不動産オークションで失敗しない方法を教えてほしい」とストレートに相談しても、経済学者が正解を教えてくれるわけではありません。経済学の知見は普遍性が高いですが、それがそのまま私たちの目の前の課題を解決してくれるものではありません。普遍性の高い知見を、状況に合わせて調整する必要があるのです。

そこでまず、私たちが行ったことは、それまでのオークション方式、自分たちなりの成功・失敗、業界の慣習などの共有です。ここでは、多方面にわたる議論を行う中で、学知に関わる疑問もたくさん出てきます。そのコミュニケーションでは、基礎的な経済学の知見があると円滑になりました。もっと、深く議論する場合は、より専門性の高い知識が必要かもしれませんが、まずは、企業成長のきっかけを作るために、基礎的な知識を持つことに有用性が高い。そこで、これからの「ビジネス教養」として経済学の知識を幅広く知ることが、成長の近道だと考えています。

4月に出版した『そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。』(日経BP)は、多くの研究者との共著です。さまざまな研究が実際にビジネスに貢献できるということを知ってもらいたい。そして、「ビジネス教養」として、経済学をざっくり学んでもらいたい。

その学びからビジネスパーソンとして必要な「学知」は何かを気づくことができたら、あとは自社ビジネスの成長を加速するための行動に移すだけです。その行動こそが経済学とビジネスの融合し、企業の成長につながっていくと確信しています。

今井誠
エコノミクスデザイン代表取締役・共同創業者。1998年関西学院大学商学部卒業。金融機関を経てアイディーユー(現 日本アセットマーケティング)にて不動産オークションに黎明期から従事。その後、不動産ファンドを経て独立。2018年ディアブル代表取締役、デューデリ&ディール取締役に就任し、不動産オークションでの経済学実装に取り組む。さらなる経済学のビジネス実装に挑むべく、エコノミクスデザインを創業。

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