女子生徒の理系進学、偏見なくして身近な選択肢に
ダイバーシティ経済協力開発機構(OECD)によると、2019年に日本で大学などの高等教育機関に進学した学生のうちSTEM分野に入学した女性の割合は、自然科学(27%)と工学(16%)の2分野で、比較可能な加盟国36カ国中、最低だった。
性別によって理系・文系などの知識配分の差があることそのものが、社会にとっても問題となり得る。教育社会学者でジェンダーに詳しい山形大学の河野銀子教授は「科学技術が人々の暮らしを支える現代社会では、研究開発に多様な視点や意見が取り入れられる必要がある。女性が研究に関わることで新しいイノベーションが生まれる可能性が広がる」と指摘する。
「無意識の偏見」払拭がカギ
ロールモデルの少なさのほかに、女子中高生の身近に潜む無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)の存在が課題として指摘される。幼少期の頃から学校や家庭、メディアなどにより「研究者になる人は男性」「女性は理系科目が苦手」というような偏った価値観にさらされることが進路にも影響を与える。
一般社団法人Waffle(東京・渋谷)では女子やジェンダーマイノリティーの中高生を対象にアプリコンテストを開催するなど、IT分野に触れる機会を提供する。アンコンシャス・バイアスにとらわれず進路を選択できるよう後押しすることが狙いだ。

Waffleのイベントには女子学生らが参加
都内に住む寺門美緒さん(19)も高校生の時にWaffleのイベントに参加した。プログラミングに興味を持ったのは、中学生のとき母に勧められた講座がきっかけだったという。「両親とも文系だが『理系は女性にむかない』というようなプレッシャーは全くなく、興味を後押ししてくれた」と話す。現在は理系学部の1年生で、大学院への進学を希望している。
家族で博物館に行くなど「理系体験」を積極的にさせるかかわり方は、女子生徒が理系に抱くイメージに影響を与える可能性があるとの調査もある。いかに機会を捻出するかも、教育現場の課題となっている。
低位の女性研究者比率 受け入れ体制整備急務
一方で、受け入れ側も対応が急がれる。総務省の調査では、20年度の日本の科学技術分野での女性研究者比率は17.5%。男性研究者の比率との差は大きい。
「多数派の男性のキャリアが研究者のスタンダードとなっており、出産などを機にキャリアが途絶えてしまう女性研究者も多い」(河野教授)という。一度研究者を辞めた女性たちが「特任」という名の下、非正規のような形で研究の現場で働き、雇用に不安を抱えている場合も多いという。
「女性研究者たちが内部から変革していくのは限度がある。国がさらにリアルな女性の声を聞いて推進していくべきだ」という河野教授の指摘は、研究者に限らず、企業の研究所やIT産業など、男性が多い理系人材の働き口に共通の課題でもある。
教育現場の変革も必須
教育現場でもアンコンシャス・バイアス払拭のための取り組みが行われる。教職員や学校の管理職などを対象とした男女共同参画研修(文科省と国立女性教育会館主催)では、家庭科や理科の授業など具体的な場面でバイアスがないかを検討する。教員自身が抱く偏見に気づき、女性教員のキャリア選択や児童生徒へ対応について理解を深める狙いがある。
教育現場での管理職に占める女性比率は低い。21年度時点で、小学校で校長を務める女性比率は約23%。中学、高校では8%程度とさらに低くなる。それぞれ教員全体に占める女性比率と比較すると、女性管理職の少なさは顕著だ。生徒にとって教師は身近にいるロールモデルだ。教育現場でのさらなる女性活躍促進が必要となる。
(黒沢亜美)