地殻変動するメディアの今 地方紙や黒子の動きを活写
リブロ汐留シオサイト店
ビジネス書・今週の平台
メインの平台上の面陳列コーナーに展示する(リブロ汐留シオサイト店)
ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測しているリブロ汐留シオサイト店だ。緊急事態宣言が解除されて人出は戻りつつある。ビジネス書の売り上げが完全に戻るにはまだ時間がかかりそうだが、期待感が高まっている状況だ。そんな中、書店員が注目するのは、出版社出身のジャーナリストが地殻変動のさなかにあるメディア関係者の動きを関心の赴くままに拾い集めたコラムをまとめた一冊だった。
『2050年のメディア』の列伝編
その本は下山進『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版)。著者の下山氏は文芸春秋で長くノンフィクションの編集者として活躍、退社後の2019年、『2050年のメディア』(文芸春秋)で読売新聞、日本経済新聞、ヤフーの3社の動きを軸に、この四半世紀のメディアの変貌を描いた。本書はその本がきっかけで始まった週刊誌連載の見開き2ページのコラムをまとめたものだ。
20年3月に始まった連載はいまも続いているが、この6月までの掲載分が後日談も補足して収録されている。著者の関心の広さを反映して広範なテーマの時事コラム集という趣だが、メディアに関係することを書くという軸を堅持することで、大きな地殻変動の中で起こっている印象的なメディアの動きをスケッチすることに成功している。
前著の通史に対する列伝として書かれたこのコラムで印象的なのは、地方紙の小さな取り組みが数多く拾われていることだ。秋田魁新報のイージス・アショアをめぐる報道、2020年11月に廃刊となった山陽新聞夕刊の実験的なルポの話、新潟日報が夕刊を廃止したあとに創刊したタブロイド紙「Otona+(おとなプラス)」の健闘……。ニュースがコモデティー化し、無料ニュースがデジタル空間にあふれかえる中、どんな記事なら有料化に堪えられるのか、その可能性の一端を著者はこうした地方紙の動きに見つける。