働く母が抱く罪悪感「マミーギルト」 乗り越えるには
日経ウーマノミクス・プロジェクトの調査から
キャリアコラム「時間がない」 感謝やねぎらいを十分に伝える
「テレワーク中に、子どもから話しかけられた際に最後までじっくり聞くことができず適当な回答をしてしまうことがある」(42歳、会社員)。在宅勤務で自宅にいる時間自体は増えても、子どもとのやりとりに十分な時間が取れない。自由回答では、こうした悩みも目立った。良い解決策はあるだろうか。

公認心理師の吉田美智子さんは、「悪いところばかり見えてしまうときは、意識して良いところに目を向けるようにして」と助言する
「コミュニケーションの『量』が限られるときは、(相手に何かを伝えるにあたって)感謝やねぎらいの言葉の優先順位を上げることが大切」。東京都のスクールカウンセラーでもある公認心理師の吉田美智子さんは、こう指摘する。
長引くコロナ禍により、「大人も子どもも思うような生活を送れないなか、がんばっている」(吉田さん)。それだけに、感謝やねぎらいの言葉を日ごろから伝えるようにして、まずは良好な関係を保ちやすくしたい。それは、「きちんと相手をしてあげられていない」といった罪悪感の芽を摘むことにもなる。
話す時間を取りにくいときは、「目を合わせてにっこりする」など言葉に頼らないコミュニケーションもプラスになるという。もう1つ。吉田さんは、家族が出かけたり帰宅したりする際、玄関に出向いて「いってらっしゃい」「おかえりなさい」と笑顔で伝える習慣をつくることをすすめる。
「毎日、少しでも共に穏やかに過ごす時間をルーチンにしておくと、忙しいときも『互いに気持ちが伝わっている』と自信を持つことができます」(吉田さん)。そんな自信が持てれば、家族との時間を取れていないと自分を責めずに済みそうだ。
「ママといたい」 気持ちを受け止めることが大事
「毎朝のように2歳児に『保育園に行きたくない。ママといたい』『きょう、保育園お休み?』と言われる」(39歳、会社員)。自由回答には、仕事に出かけることをためらってしまうような、こんな悩みも多数寄せられた。
こうした場合は、まずは「そうだよね」と子どもの気持ちを受け止めることが大切だという。「子どもは親の心のなかに自分の存在感がどれだけあるか、敏感に感じ取ります。親が(自分に関することで)悩んでくれているだけでスッキリするケースもある」(吉田さん)というのが、その理由だ。
働く母親は「子どもに寂しい思いをさせているのではないか」「自分は働いていていいのだろうか」と心を揺さぶられがち。だが、このケースのように子どもから仕事にまつわる要望があった際は、無理にその場で解決策を示さなくていい。まずは、しっかり受け止めよう。それこそが大事と分かっていれば、悩みを深める代わりに子どもにきちんと向き合うことができる。そこから、より良い関係を築いていけそうだ。
子の成長にプラスなのは「程よいお母さん」
今回の調査では、「家事や子育てが十分にできない」ことを理由に「仕事をやめたい」もしくは「仕事を減らしたい」と考えたことがある女性が約7割に上ることも分かった。

だが、塚越さんも吉田さんも「完璧な母親」がベストではないと口をそろえる。「完璧であろうとするあまり、母親がイライラして不安定になると子どもの成長にはマイナスになる」(塚越さん)。吉田さんも「子どもにとっては『程よいお母さん』がいいと言われています」と強調する。
なぜなら、子どもは暮らしのなかで「足りないところ」があると、そこを埋めようとして成長する面があるからだという。家事を手伝うといったことも、そうした点で子どもの成長を後押しするきっかけとなる。
家族にも仕事にも一生懸命だからこそ陥りがちな「マミーギルト」。けれど、吉田さんが教えてくれたように「程よいお母さん」がベストならば、「家事や子育てが十分にできない」といったことを理由に仕事を手放すことが正解とは言えないだろう。
人生100年時代。築いてきたキャリアが先々に思いがけないチャンスをもたらしてくれる可能性も小さくない。アドバイスを上手に取り入れて、春からの新年度を心地よく迎えたい。
(若狭美緒)