アートは難しくない ビジネスや人生のヒントが満載
マネックスグループ社長 松本大氏(13)
ビジネスの視点例えれば、アートってだいぶ風変わりな親戚みたいなものじゃないかと思うんです。付き合っていくうちに、単なる好き嫌いを超えて「世の中には本当にいろいろな考え方があるんだなぁ」というのが実感として分かってくる。自分と同じ業界の人とばかり会っているより、他の業界の人と話した方が発見があって面白いし、日常とはかけ離れた小説を読めば「なるほど、そういう考え方、感じ方があるのか」と世界が広がるでしょう。アートに触れればもっとその振れ幅が大きくなり、多様な価値観に触れられると思うのです。それを繰り返していくうちに、自分の受容度、ダイナミックレンジ(最小値と最大値の幅)が確実に広がっていく。そんな感覚があります。
ビジネスをする上でも、生きていく上でも、世の中には多様な価値観、生き方、考え方があるというのを肌で感じることはとても大切だと思います。そもそもビジネスの相手であるお客さんって、ものすごく多様ですからね。
社内でアートに触れられる機会
マネックスグループも現代アートの新進アーティストを支援するとともに、会社の中で社員がアーティストやアートに触れられる機会を作ろうと、「ART IN THE OFFICE」というプロジェクトを08年から続けています。毎年、春先に公募で集まった作品案を審査し、受賞したアーティストにはオフィスに来てもらい、社員と一緒にワークショップをしながら作品を作ってもらいます。私の写真の背景に映り込んでいるのが、21年度の受賞作品、中田有美さんの「Near and Far (IN THE OFFICE)」。応募157作品案の中から選ばれました。ちょうど新型コロナウイルス禍で多くの人が「外に出かけたい」という気持ちを抱え、鬱屈としていた時期だったので、ヴィヴィッドな色彩でこちらに迫ってくるような伸びやかな中田さんの作品が皆の心を捉えたのでしょう。

背景に映り込んでいるのが2021年度の受賞作品「Near and Far (IN THE OFFICE)」
制作のプロセスも面白く、社員がそれぞれの思い出の写真やモノを持参し、中田さんにそのエピソードを語り、それを受けて中田さんが「出会いを待つ人の物語」として、まず文章にしました。そして、その文章に合わせて写真をコラージュし、画像作品を作って生地に出力。それを壁一面に貼っています。それとは別に、油彩画も描いてもらっています。
コラージュしている写真は犬や子どもなど、「あ、これは○○さんのだな」と分かるものと、そうでない謎のものがいろいろ混ざっていますが、全体を見るとどこか社員の匂いや息づかいが感じられるから不思議です。作品には私が提供したものも取り込まれていて、これが何かは内緒なのですが、よーく見ると分かる人には分かるんじゃないかな。とにかくアートって、とことん自由だし、驚きや発見があって本当に面白いというのを改めて実感させてもらいました。
話しているうちに、またアートを見に行きたくなりました。皆さんもこの春、「ちょっと変わった親戚」に会うつもりで、美術館に出かけてみてはいかがでしょうか。
1963年埼玉県生まれ。87年東大法卒、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券を経てゴールドマン・サックス証券でゼネラル・パートナーに就任。99年マネックス設立。2004年マネックス・ビーンズ・ホールディングス(現マネックスグループ)社長、13年6月から会長兼社長。08年から13年まで東京証券取引所の社外取締役、現在は米マスターカードの社外取締役を務める。
(ライター 石臥薫子)