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膨大なデータに経済学をかけ合わせる

先ほど、データへの過信というお話をしましたが、DX推進という課題に限らず、AIとデータに関しては、まだまだ誤解されている方が多いと感じます。「AIは、データを大量に集めて答えを導いてくれる。そして、多くのことはうまくいくのではないか」という誤解です。AIで将来の予測まで対応しようとするようなDX推進は、まさにこの典型例と言えるでしょう。

AIが得意とするのは、「過去データを膨大に学習して、そのデータから最適な答えを導き出すこと」です。予測の材料は、あくまでも「過去データ」。もちろん、技術の大幅な進歩によりこの数年で過去データからの未来予測の精度はかなり改善していますが、これまでとは社会状況が変わっていたり、これまで起こったことのない課題に直面していたりする場合には、ほとんど機能しません。たとえば、今回のウクライナ侵攻に関連する過去に類を見ない様々な影響には、過去データがない。その結果、AIでは対応がかなり難しい。

ただし、「データはやっぱり当てにならない」と決めつけるのは早計です。実はここで、「経済学」が役に立ちます。経済学で定番の「需要予測モデル」をAIに組み込むと、精度が格段に良くなるのです。

私はこれまで、多くの企業のDX推進チームのメンバーとミーティングをしてきました。その中で、このかけ合わせに気づき、実行しているチームはごく一部です。

データを使うことでできること

なぜ、データに経済学をかけ合わせることが有効なのか。それは、経済学という学問の性質によります。経済学というと、研究や机上のイメージが強いかもしれません。しかし、実際に研究をする場合も、実経済のデータを活用しています。そもそも経済を扱っている研究なので、企業などの社会活動をデータとして取得することは日々の研究に直結しています。既存の経済活動から、今後の予測モデルを検証する。顧客に関連するデータから、購買行動を予測する。新規顧客と既存顧客に対する営業方針を決定する。実は、様々な事象に関連する研究が存在しています。

多くの企業の経営層は、40代以上かと思います。私たち40代が、学生時代の経済学は机上の学びが多く、実社会に出たときに経済学は活用できるイメージは少なかったでしょう。実は、この20年間で、経済学とビジネスとの距離感は大きく近づきました。特に、様々な経済に関するデータが簡単に取得できるようになり、研究は大きく進んできました。新たな発見が企業成長に寄与し、その結果研究がさらに進んでいくという研究とビジネスの正のループが米国では起きています。

研究者は、貪欲に研究対象を探しています。そして、企業の課題がそのまま研究に活用できるということも多くあります。まだまだ、答えが見えていないことでも企業と一緒にチャレンジするということは歓迎されます。ビジネスという観点では、収益連動型で企業と経済学者でチームを組んで、課題解決していくということもこれから増えてきます。企業課題は、複雑に絡み合っているので一人の研究者の研究範囲ではカバーしきれないこともありますし、そもそもどの研究に当てはまるかわからないこともあります。米国の先端企業では社内に多数の研究者を雇用することで解決したことも、日本では難しい。そこで、経済学のビジネス実装には日本モデルが必要だと思っています。それを体現するために、エコノミクスデザインは、貪欲に活動していきます。

今井誠
エコノミクスデザイン代表取締役・共同創業者。1998年関西学院大学商学部卒業。金融機関を経てアイディーユー(現 日本アセットマーケティング)にて不動産オークションに黎明期から従事。その後、不動産ファンドを経て独立。2018年ディアブル代表取締役、デューデリ&ディール取締役に就任し、不動産オークションでの経済学実装に取り組む。さらなる経済学のビジネス実装に挑むべく、エコノミクスデザインを創業。

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