中年の星がみた藤井聡太 「1年で飛躍、弱点は見えず」
『木村一基 折れない心の育て方』監修者に聞く
ブックコラム
今期将棋王座戦第1局に勝った木村九段(9月、仙台市で)
藤井聡太3冠の活躍が注目を集める将棋界で、独特の存在感を高めている棋士がいる。「中年の星」と呼ばれる木村一基九段だ。年間60勝以上を挙げた戦績を持つ棋士は、羽生善治九段らわずか4人。そのうちの一人でありながら、初タイトル獲得は一昨年の46歳の時だった。何度も挫折を経験しながら、そのたびに再起を果たし、現在も若手棋士を相手にタイトル戦を戦っている。座右の銘は「百折不撓」(ひゃくせつふとう)。『木村一基 折れない心の育て方』(藤島淳著、講談社)を監修した同九段に聞いた。
「AIは必ず思考の叩き台を出しくれる」

木村九段は「結果が出ないときでもどれだけ普段の努力を続けられるかがカギ」と話す
――19歳の藤井3冠が竜王戦で3連勝して大きなタイトルに王手をかけています。どう見ていますか。
「この1年で大きく飛躍しました。完成度が増し、ミスがより少なくなり、弱点がちょっと見当たらない感じです。もともと詰め将棋の名手であり、終盤が恐ろしく強いのが藤井将棋のひとつの特徴でした。この1年は序盤で差をつけて勝つパターンが増えています。序盤でリードされると相手は追いつけず、五分五分の勝負に持ち込んでも終盤で逆転されます」
――序盤作戦の進歩は、人工知能(AI)を駆使する研究方法とも関連がありそうですね。
「私の場合、パソコンの画面を見ていると目は疲れるし、理解できない手もありますが、今まで分からなかった点で新たな発見に出合えるのが楽しいです。AIの良いところは必ず思考のたたきき台を出してくれることです。それを自分なりに解釈・消化していきます」
「ただ、性能の良いパソコンを使うと、ソフトからどんどん興味深い手が出てきて、注意していないと自分で考えなくなりますね。それが一番怖い。AIの成果を十分に生かすには、逆説的になりますが、AIが発見できない手を自分で編み出すくらいの意欲が必要かもしれません。対局では、調べ済みの局面でもじっくり考えてから指します」
「棋士の才能には、読みの正確さや寄せの早さなど技術面のほかに、不調の時でも同じ努力を続けられるかどうかの、心の強さも含まれると考えています。一生懸命努力を重ねてもうまくいく保証はありません。それでも何かにしがみつくかのように研究を重ねないと、どんどんついて行けなくなります」