運次第の資金調達はフェアでない VBを世界へ後押し
FUNDINNO代表取締役CEO 柴原祐喜氏(下)
キャリアの原点キャズムにはまる
16年11月、ようやく株式投資型CFのプラットフォーム業者として第一種少額電子募集取扱業の登録を受け、17年4月にFUNDINNOをローンチ。世間の注目度も高く、初回は募集開始後ものの数分で目標額が集まるなど順調なスタートを切った。
しかし再びピンチがやってくる。柴原氏いわく「イノベーター理論における『キャズム理論』通りのことが起きてしまった」。キャズムとは「溝」。消費者の中で新しい商品やサービスを早い段階で使おうとするタイプ(アーリーアダプター)と、興味はあるが実際に使うのには慎重なタイプ(アーリーマジョリティー)の間には、深い溝があるとする理論で、商品やサービスを普及させるにはその溝をいかに乗り越えるかが肝だとされる。
「ある時期まで個人投資家の数がぐっと増えましたが、そこからは横ばい状態が続き、まさにキャズムにはまりました。成長を加味してベンチャーキャピタルからの資金を得られる前提で先行投資していたのに、急に資金提供の話が覆ってしまったこともありました」
次から次にピンチに襲われるベンチャーの「あるある」だが19年、マーケティングに関して強力な助っ人がメンバーに加わったことで、事業は軌道に乗り始める。助っ人とは現在、最高マーケティング責任者(CMO)を務める向井純太郎氏。ヒューレット・パッカードでシステムエンジニアやプロジェクトマネージャーとして働いた後、創業期のライフネット生命に転職。そこでマーケティングの腕を磨いた人物だ。向井氏は言う。
「チームに入った段階ではサービスがまだまだ知られていなかったので、投資家の方、ベンチャー企業双方に知っていただくことにひたすら注力しました。リスクの高い金融商品であるものの、個人でも10万円程度から年間50万円を上限にベンチャー企業に投資できることや、投資先企業が成長して、新規株式公開(IPO)やM&Aなど第三者への売却をした際に大きな値上がり益を期待できるといった基本的な仕組みから、社会貢献性の高い事業に個人が出資できる意義なども丁寧に説明していきました。ベンチャー企業側には、資金調達のシミュレーションや株主管理ができるツールの提供や、追加投資に応じてくれそうな投資家の紹介などもしてきました。また、地域貢献を目指す地方企業の開拓にも力を入れてきました」
競合企業4社も参入し、業界全体では19年に32件だった成約件数が21年には118件に、成約金額は9億5200万円から37億円へと急増した。その中でFUNDINNOは現在、約8割のシェアを握り、ユーザー数は9万人にのぼる。21年3月には卓球で国内トップのTリーグに参加するチーム「琉球アスティーダ」の運営会社、琉球アスティーダスポーツクラブが、株式投資型CFを活用した企業として初めて東京プロマーケット(TPM)に上場を果たした。