全社一律ワークスタイルは幻想 多様化時代のチーム像
KPMGコンサルティング 油布顕史プリンシパル
キャリアとお金を考える例えば、社員のチャレンジ重視をうたっていながら、設定目標の到達度で報酬が決まる仕組みになっていたり、権限移譲による業務のスピードアップを標榜している一方で、承認プロセスが多い仕組みになっているなどが典型的なケースです。ワークスタイル変革は、あっちこっちつまみ食いしたような仕組みをつくると社員は混乱します。何を重視する代わりに何を捨てるかといった重点志向で臨む方が成功の確率が高まります。

これからの社員と会社との関係性、組織風土、ワークスタイルの相関
これからのワークスタイルを見すえたオフィスの価値
最後に、リモートワーク継続をめぐる会社と社員の争点になったオフィス(出社)の価値について考えてみます。筆者の企業支援経験を通じた所感では、「集中できる環境」としてオフィスの価値を選択する社員のニーズは少ない印象です。一方で、研究職・開発職のように専用機材を使用しなければならないケース、成果が表れるまで長期的な時間を要する業務は、オフィスの必要性が認められています。また、プリンターなどのオフィス機器の利用や移動の中継地としてのサテライト利用は営業業務を中心にニーズは高いようです。
組織の業務特性を問わず全体的にオフィスへのニーズが高かったのは、「偶発的な出会いを通じた発想転換や問題解決」「人脈形成」「オープンな対話の促進」「人材育成」です。今の業務を他人に教えたり、転換するため新しい考えを生み出すといったところにメリットを感じる人が多いようです。
リモートワークによって、業務を効率的に処理するワークスタイルが整備されたことは喜ばしいことですが、新たな人的関係構築や気づきを得にくいという面があります。今後は、自律的な社員一人ひとりのワークスタイルに応じて、対面業務の用途も鑑みてオフィス活用を考える必要があるのではないでしょうか。
ワークスタイル変革を行うには、会社と社員の関係と組織カルチャーを変える必要があるのです。その意味で、リモートワークを労務管理や業務効率化のためのツール選定だけに留めず、全社変革に向けた議論のきっかけにしてほしいと思います。
組織・人材マネジメント領域で20年以上のコンサルティング経験を有する。大手金融機関・製造業・サービス業界の人事改革支援に従事。事業会社、会計系コンサルティングファームを経て現職。組織人事にまつわる変革支援-組織設計、人事戦略、人事制度(評価、報酬、タレントマネジメント)の導入・定着支援、働き方改革、組織風土改革、チェンジマネジメントの領域において数多くのプロジェクトを推進。企業向けの講演多数。