強いキャリアの築き方 エグゼクティブに共通の3要素
エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子
次世代リーダーの転職学キャリア分析の観点は「希少性」「市場性」「再現性」
では、自身のキャリアを見つめ直すにあたり、どのような観点を持てばいいのでしょうか。私は日ごろから、エグゼクティブクラスの方々とお話しし、どのようにキャリアを築いてきたかをお聴きしています。すると、エグゼクティブポジションに就いている皆さんに共通するキャリア構築のポイントが、3つ浮かび上がります。
それは「希少性」「市場性」「再現性」です。
強いキャリアを築くためには、この3つがそろっているのが理想的だと感じています。それぞれどのようなことを指すのかをお話しします。
●希少性
言葉どおり、「多くの人が持っている経験・スキル」ではなく、「自分にしかない経験・スキル」を持つということです。そのためには、なるべく「レッドオーシャン(競争が激しい市場・分野)」ではなく「ブルーオーシャン(競争のない市場・分野)」を狙いたいものです。
わかりやすく、私自身の経験を例にとってお話ししましょう。私は大学の外国語学部英語学科で学んだのですが、就職活動の時期、同窓生たちの多くは航空会社のキャビンアテンダントを目指していました。
そこは、高い英語力を持ち、接遇マナーなどもしっかりと学んだ女性たちがひしめきあう、まさにレッドオーシャンです。そこで私は「逆張り」することにしました。あまり注目されていない業界・職種を探したのです。
そして、「転職」がまだ一般的ではなかった頃の「人材紹介会社」、そして当時は同じ学部から志望する学生が少なかった「営業職」を選びました。実際に仕事を始めてみると、「女性営業」は珍しがられ、それだけでもブランディングになる時代でした。
さらには、他の営業担当が攻めていない業界やマーケットはどこかを探り、「流通業界」に照準を絞って営業をかけました。その結果、流通業界の新規の顧客開拓に成功し、入社1年目にして営業成績1位、MVPを獲得。「流通といえば森本」と言われるセルフブランドを構築し、私のもとに流通業界に関する情報が集まるようになってきたのです。このように、優秀な人たちがこぞって押し寄せるような領域を避け、人があまり注目していない領域に目を向けるのは得策の1つといえます。
少し前に出会ったある学生さんは、「海外ビジネスでキャリアを積みたい」という志向を持っていました。そのようなタイプの学生の多くは大手商社を志望しがちですが、彼はあえて商社を避けていました。「TOEIC900点レベルの英語力を持つ学生がひしめく中では、自分レベルの英語力ではそれほど評価されず、海外赴任のチャンスは与えられないだろう」と。そこで彼は、知名度が低くニッチな業種でありながら、特定分野においては海外含めてトップシェアの部品メーカーを選んだそうです。その企業は、20代の若手社員には必ず海外赴任のチャンスを与えるそうで、それが入社の決め手になったのだとか。
「あまり注目されておらず、ライバルは少ないけれど、将来の伸びしろがある」――そんな分野を探ってみてはいかがでしょうか。とはいえ、自身が「希少な存在」となれる機会には、そうそう恵まれるものではないのも事実です。しかし、自身のスキルを「希少価値が高いもの」にすることは可能です。「掛け合わせ」のバリエーションを増やせばいいのです。
例えば、「A」のスキルを持つ人が100人いるとすれば、「A×B」のスキルを持つ人は20人、「A×B×C」のスキルを兼ね備えた人は5人、「A×B×C×D」のスキルを組み合わせて生かせる人は1人だけ……と、掛け算の項目が増えるほど「希少人材」になれます。「逆張り」と「掛け算」。この2つを意識して、キャリアに希少性を持たせることを目指してはいかがでしょうか。
「キャリアの掛け算」については、過去の記事(転職ニーズ様変わり 一本道より多職種の経験者に買い)でもお話ししています。
●市場性
いくら希少なスキル・高度なスキルを身に付けても、市場が求めていなければ生かせる場を得られません。世の中の動向にアンテナを張り、この先のニーズを予測することが大切です。特に、昨今では「AI(人工知能)やロボットに代替される可能性があるか」を想像する必要があります。
ある会社に、「エクセルの達人」と呼ばれて重宝されていた方がいました。ところが、その方がこれまで1カ月かけて行っていたデータ集計が、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入により短時間で完了できるように。その方は別の部署に異動になった……という例があります。
ビジネストレンドのニュースなどもチェックし、ニーズが消えそうなもの・高まりそうなものを想像する習慣を付けておきたいものです。なお、テクノロジーが進化したとしても、価値が消えることがない経験もあります。例えば、「チームビルディング」「プロジェクトマネジメント」「仕組み作り」「業務改善」「交渉」などです。これらの経験は、積極的に積んでおくことをお勧めします。