落合陽一氏が向き合う介護 ハイテク駆使し産業を創出
『落合陽一、34歳、「老い」と向き合う』著者に聞く
ブックコラムデジタル技術で「ぬくもりのある介護」も可能に
――高齢者らが求める「ぬくもりのある介護」にもデジタル技術は対応できるでしょうか。
「介護現場の情緒的ケアは重要ですが、人の手による介助にこだわることが、介護従事者の過剰負担につながっている面も大きな課題です。人間にしかできないと思われている『見守り』もハイテクで代替可能と考えています。現在のナースコールは受話器を通して声が聞こえるだけです。一歩進めて病室のテレビ画面で介護者の顔を表示して会話できるようにすれば、高齢者の安心感も向上し、夜勤の介護者の精神的負担も軽減するでしょう」
「認知症の方とのコミュニケーションに応用できるロボットも開発されています。高齢者の患者の方にロボットを抱きながら会話させると、介護する人間とのコミュニケーションよりもスムーズにしゃべれるようになることが確認されています」
――さまざまなシーズ(種)が育ちつつありますね。日本でハイテク介護が新たな成長産業になりうると位置づけています。
「少子高齢化が進む日本の介護産業は、ハイテクで代替し労働の省人化を進める先駆的なビジネスモデルを構築できると感じています。介護問題の解決は、日本社会をアップデートするための取り組みを、実際にお金を落とすテストケースとして現場で行うことができる環境にあります。人口減少と経済停滞に悩む、ほかの先進国などに解決策を提示できるチャンスであります」
「ただ現在でも介護現場で最新デバイスを導入してもあまり利用されないケースをよく耳にします。付随する機能が多様で介護職や高齢者にとって使いづらくなっていることや、費用対効果がわかりにくいゆえに経営層に弾かれてしまうことも原因です。介護テクノロジーを浸透させていくためには、ひとつひとつの課題をシンプルに解決していく姿勢が欠かせないと思います」
「ハイテク介護は高齢者の身体的な自由が減少しても、一人ひとりが様々な選択肢を選んで豊かな人生を享受できるようサポートするのが目標です。介護の役割自体も、身体や情緒のケアから、介護される人のそのためには幸福を実現するトータルコーディネーターに移っていくのではないでしょうか」
(聞き手は松本治人)
1987年東京都生まれ。筑波大図書館情報メディア系准教授、デジタルネイチャー開発研究センター長。JST CREST xDiversity(クロスダイバーシティ) 研究代表。全世代型社会保障構築会議構成員(内閣官房)。メディアアーティストとしての個展も広く活動。大学発ベンチャーの経営も行う。