「求む50代」 若手経営者が欲しがるベテランとは
エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子
次世代リーダーの転職学経営者経験がなくても、経営支援で活躍する50代
ここまでに紹介したAさん、Bさんは、前職で役員クラスの経験を持っていましたが、部長クラスの経歴の持ち主であっても、顧問として若手経営者を支援しているケースは珍しくありません。そういう人たちは企業の顧問を務め、「経営塾」のような形でセミナーや寺小屋的な勉強会を主催しているケースもあります。
こうした活動を行うのは、「引退や企業売却などで第一線を退いた経営者」というイメージがあるのではないでしょうか。しかし、彼らは「元・経営者」ではありません。会社員として多くの企業経営者とつながりを持ち、スタートアップから上場企業まで、様々な経営手法の知見や人脈を蓄えてきた人たちです。その引き出しの多さを生かし、経営者を支援しているのです。
最近、私が会って印象に残っているのが、「代表世話人」という企業の代表、杉浦佳浩さん(50代後半)です。
杉浦さんは証券会社、メーカーを経て大手損害保険会社に20数年勤務。営業職、マネジメント職を経験し、スタートアップや上場会社への投資活動、子会社・ベンチャーキャピタルとの協業も経験したそうです。また、社外での人間関係を大切にし、「人と人をつなげる」活動にも注力してきたといいます。
50歳のとき、病に倒れて入院したのを機に、起業を決意。「世話人業」を手がける「代表世話人株式会社」を設立しました。
現在は、大手からスタートアップまで日本全国の多種多様な企業、数十社とつながり、経営者同士のネットワーク作りを支援しています。そのほかにも、杉浦さん独自の視点でケミストリー(化学反応)が起こりそうな経営者同士を引き合わせるなどの活動をしています。
50代から「頼られる人材」となるために身につけるべきこと
今回お話ししたようなポジション・役割で活躍しているミドル・シニアの皆さんには、次のような共通点が見られます。
・多くの経営者との接点を持ち、ネットワークを築いている
・「肩書」で仕事をするのではなく、実務能力を磨いている
・過去の経験・事象について、因果関係を分析・整理・理解しており、目の前の課題に当てはめて再現できる
・自身の過去の経験を伝えるだけでなく、最新のビジネストレンドを常にインプットしている
・所属する組織に閉じたネットワークではなく、積極的に社外活動にも取り組まれている
(副業やボランティア活動など「サードプレイス」を持っている)
・年下に対しても上から目線で接することなく、謙虚な姿勢
・若い力を信じ、尊重する
・心理的安全性(組織内において、自身の考え・感情を安心して発信できる状態)のある関係や環境をつくれる
・包容力がある一方、厳しく進言するなど突き放すべきときは突き放し、ほどよい距離感を保てる
実際、このようなミドル・シニア世代の人がサポーター、メンターとしてそばについている若手経営者は、会社の盤石な基盤やエンゲージメントの組織文化を築きながらしっかり成長していると感じます。
最近は企業と顧問・社外取締役人材をマッチングする企業も増えていて、このようなセカンドキャリアへ踏み出しやすくなっていると思います。今後、「若手経営者の支援」というセカンドキャリアを選択肢に入れるならば、上記に挙げたような意識・行動を心がけ、身につけてはいかがでしょうか。特に大手企業に勤務している場合は、「肩書で仕事をするのではなく、実務能力を磨く」チャンスを意識的につかみに行ってほしいと思います。
一方で、大手企業の出身者が転職活動で苦戦する傾向も見られます。例えば、組織ぐるみで大きなプロジェクトを推進するような大手商社では、個人のブランドが立ちにくい。そのため、大手商社の看板がはずれたとき、勝負できる強みを見つけられずに苦労するケースが多いのです。
同じ大手企業出身でも、大規模組織の中間管理職のポジションに長くいた人よりも、子会社や提携先・支援先のベンチャー企業などに出向するなどして、ハンズオンで取り組んだ経験を持つ人のほうがセカンドキャリアの選択肢が広いと感じます。そのような経験を積める異動・出向、そして副業などのチャンスがあれば、ぜひ活用することをお勧めします。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。

森本千賀子