文系銀行マンがシステム開発者に 知識ゼロからの挑戦
myリスキリングストーリー通常業務と並行してリスキリングする場合、悩ましいのが時間の捻出だ。西出さんの場合、始業は8時半で夜は7時ごろまで残業することが多く、帰宅は8時。その後は疲れて勉強できないので、出社を繰り上げ、始業前の30分を勉強に充てることにした。自ら課したルールは愚直に守り、週末も毎週ではないにせよ、まとまった時間が取れる時には集中して勉強した。
市販の参考書を使いながら、13区分あるIT関連の国家資格のうち、エントリーレベルの「ITパスポート」は早々に取得。続いて、ITエンジニアとしての総合的知識を問う「基本情報技術者試験」「応用情報技術者試験」にも合格した。その間に、学びと仕事の歯車が徐々にかみ合ってくるのを実感したという。

西出さんは段階を追って国家資格取得に挑戦することでリスキリングを進めた
「最初のうちは日々の仕事と試験勉強がリンクしていなかったのですが、応用技術者試験に挑戦する頃になると、システム開発の全体像がつかめるようになったんです。だんだんと自分は全体の中でこの部分を担当していて、こういう意味があるんだとか、チームの他のメンバーはこの部分を担っているんだというのがわかるようになってきた。そうなると勉強していても、もっと深く知りたいと欲が出てきますし、仕事に対するモチベーションも上がりました」
自分がやっていることの意味が感じられると、リスキリングは加速する。西出さんの場合、公的資格取得を支援する行内の奨励金制度の存在を教えてくれるなど、上司の支援もあり、さらに上位の「システムアーキテクト」「ITストラテジスト」の資格に挑戦することにした。
システムアーキテクトは、システム開発の大きな青写真を設計し開発を主導する「現場の指揮官」。一方、ITストラテジストは「経営とITを結びつける戦略家」と称され、企業の理念や戦略に基づいて、ITを活用したビジネスモデルや業務効率化を立案し、実行する。いずれも資格試験の合格率は15%程度と難関だ。
これら上位資格を目指すとなると学ぶ範囲も膨大になるが、勉強に割ける時間は変わらない。そこで西出さんは、効率を高めるためにこれまでの独学ではなく、資格の専門予備校「TAC」のウェブ講座を活用し、効率的に学ぶことにした。
「応用情報技術者試験までは主に知識が問われ、解答用紙もマークシートでしたが、システムアーキテクトやITストラテジスト試験には論述があり、物事の考え方が問われます。その点、技術者として経験を積んできた人は引き出しが多いので有利ですが、私の場合は経験が浅いので、講座で知識を補強しつつ、論文の組み立て方を学びました」
実戦経験の乏しさをカバーするため、自行の過去のプロジェクトの資料を探し出し、どういう課題に対しどのように解決していったのかを研究。また、さまざまな企業で実際に起きたATMの停止や株の誤発注などのトラブルを題材に、原因や背景を丹念に取材した「システムはなぜダウンするのか」(日経BP)を「自分が担当者だったら」と想像しながら読み込んだりもした。
2つの資格とも、準備期間は約半年。TACの受講費用と受験費用の計約12万円は、上司が勧めてくれた行内の奨励金でほぼカバーできた。そして、システムアーキテクトは18年に、ITストラテジストは19年に、いずれも一発で合格した。