3度の人員削減を担当、人事部員が見た雇用調整の現実
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今回は筆者の経験を基に、雇用調整を人事担当者の視点から見ていきたいと思います(写真はイメージ)=PIXTA
大手IT企業による大規模な雇用調整が話題です。筆者も人事担当者として、雇用調整を実施した経験が3度あります。3度とも、雇用調整実施後に筆者自身も退職しました。
もともと組織活性化やそのための採用・育成をミッションとして入社したので、雇用調整後の採用が滞る時期には人事担当者としての仕事は減ります。組織風土刷新のための人員入れ替えを目的とした雇用調整の場合は事情が異なるでしょうが、筆者が担当したのは業績悪化のための人員削減が多く、実施後は会社に残る理由が薄れがちです。
そうして自分も退職し、次の会社でも雇用調整を手掛けているうちに、いつの間にかそれが筆者の得意技の一つになっていきました。筆者が近寄っただけで「疫病神が来た」と言われたり、口をきいてくれない社員が出てきたりする悲劇も起こって、結局また雇用調整実施後に退職する流れになりました。
今回は筆者の経験を基に、雇用調整を人事担当者の視点から見ていきたいと思います。
残る人からもクレームが押し寄せる
雇用調整というと職を失った人が注目されがちですが、会社に残る人も大変です。退職した人の声はSNS(交流サイト)でよく見られますが、残った人は遠慮してあまりつぶやかないのかもしれません。しかし人事部門には、在職者からの要望やクレームが押し寄せます。
在職者にとってまず関心事になるのは「今後も退職者が出るのではないか、次は誰が指名されるのか」です。古参社員の中には、その指名をうまく切り抜ける方法を仲間に吹聴する人が出てきます。「自分はこれまでこうやって何度も雇用調整を切り抜けてきた」などと自信満々に話すのです。こうした不確かな話が現場に広がり、人事部門も問い合わせの対応に追われます。
また雇用調整で社員の2~3割がいなくなっても、仕事が減るわけではありません。残った社員にそのしわ寄せがきます。不満をためた現場から、人事担当者に連絡が来るのです。雇用調整実施時、人事担当者は対象となる社員を打ち合わせに呼ぶものですが、逆に残った社員からは人事担当者が呼び出されるということを経験して初めて知りました。
残った社員からは「3割も人が減ったら現状の業績を維持できない」などという当然の文句や主張が寄せられます。業績悪化で人員削減しているにもかかわらず、「業務負荷が増えるのだから給与を増やしてほしい」との注文を受けることも珍しくありません。揚げ句の果てに「役員が豪勢な暮らしをしているように見えるが、役員報酬はきちんと削減しているのか」などと詰問されることもあります。