女性自身縛る「無意識の思い込み」 思考や行動変化を
ダイバーシティ思考や行動の変化で「見える世界も未来も変わる」
こうした意識はなぜ生まれるのか。「アンコンシャス・バイアスは相手だけでなく、自分に対するものもある」と主張してきたアンコンシャスバイアス研究所(東京・港)の守屋智敬代表理事は、「過去の経験や見聞きしたことによって影響を受け培われるもので、自己防衛本能により生まれる」と説く。
「自分に対するアンコンシャス・バイアスは、自分の可能性を狭める」ものでもある。困難を伴う挑戦はしないほうが居心地はよいかもしれない。だが思考や行動を変えると「見える世界も変わり未来も変わる」と守屋氏は訴える。
例えば「育児中だから出張が多いこの仕事は私には無理」と頭ごなしに決めつける思考は自分の可能性を限定すると守屋氏は指摘する。「本当に無理なのか、思い込みではないのか」と振り返ってみる。「自らに疑問を持ち、どうしたら実現できるか、上司やパートナーと相談することが大事」とアドバイスする。従来の考え方を変えてみようとする、少しでも周囲に相談してみる、という一歩が思い込みから抜け出し新たな飛躍への突破口になる。
バイアスの可視化、発信がカギ
元官僚で長年女性政策に携わってきた昭和女子大理事長・総長の坂東真理子氏に、日本社会と女性のアンコンシャス・バイアスについて聞いた。
――自身のアンコンシャス・バイアスに気づいたことはありますか。

昭和女子大学の坂東真理子理事長・総長
「子どもの時、学校では建前として女性差別はないはずだった。それでも勉強や運動ができると『女の子にしておくのはもったいない』と言われ、いい成績をとっても『実社会はまた別だからね』という"呪いの言葉"もあった。隠されたメッセージが女性の挑戦を抑え込んでいったと思う」
「日本の社会は空気で醸成されている。女性に関する概念を覆すのはとても大変。今振り返ると、若い人に『十分に(社会を)変えられずにごめんなさい』と言いたい。法律や制度を変えて、少しずつ女性が社会で活躍しやすいように改善はしたが、破壊的イノベーションはおこせなかった」
――現在の女性の意識はどうでしょう。
「進学率や就業率をみても変わってきたとは思う。ただ意識の変革が遅れており、変わらないといけない。高度な専門職の女性でも夫に仕事で全力投球をさせようと思い込む人もいる。女性は家のことをきっちりやらないと働いてはいけない、というプレッシャーをいまだに感じている人がいるのではないか」
――どうすればそうしたアンコンシャス・バイアスを打破できますか。
「他の考え方や生き方に触れ、周囲の人と課題をシェアすること。3Sと呼んでいるが、『私たちの問題』として社会の課題をシェアし、互いにシンパシー(共感)を持ち、サポートする。アンコンシャス・バイアスを可視化して、発信することが大切だ」
男性の偏見、仕組みで排除
職場では男性の上司の考えが変わらないと前には進まない。企業のダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)を支援するカレイディスト(東京・港)の塚原月子社長は、「自らと価値観が似ている人、すぐ駆けつけるなど都合がよい人を意思決定者が引き上げがちだ」と指摘する。
海外の先進的な企業では、アンコンシャス・バイアスの影響を防ぐ仕組みを取り入れているところもある。例えば上位職が後継者を決める際、候補者の3割以上は女性にするという仕組みだ。そうすると「これまで候補にならなかった女性があがってくる。個人的なエラーをなくすための仕掛けとなる」(塚原氏)。
女性自身が自分で壁を乗り越える自助努力のみならず、組織や意思決定者の意識の変化も不可欠だ。
(高橋里奈)