東大は選択肢の一つ、「渋幕・渋渋の奇跡」のわけ
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東京・渋谷にある渋谷教育学園渋谷中学・高校
一方で、今年の東大の推薦入試で、渋渋からは3人が合格、全国1位の実績となった。男子校や女子校はそれぞれ上限2枠とキャップをはめられているためでもあるが、「将来、ノーベル賞級の研究をやれる優秀で個性豊かな人材が欲しい」とスタートした東大推薦枠は、ある意味で一般枠以上の難関コース。21年に渋渋から東大に推薦合格した女子生徒は、「LGBTQなどの性的少数者の人権問題」を研究テーマにするなど既存の進学校とはひと味違う人材が育っているわけだ。
埼玉から千葉に通う渋幕のロボット女子
姉妹校の渋幕は、すでに男女共学校としては全国トップ級の進学校となっている。22年の東大合格者数は74人で全国7位。渋幕もユニークな進学校だ。
「ロボット開発をやりたかった」。埼玉県さいたま市に暮らす渋幕高校3年生の立崎乃衣さん。中学入試では桜蔭にも合格したが、自宅からより遠い千葉市の渋幕に入学した。同校の物理部で本格的なロボット開発に取り組めると考えたからだ。立崎さんはコロナ禍で医療・介護施設向けにフェースシールドを自ら設計、製作して寄贈、社会的な注目を集めた。国際ロボコンの競技メンバーを率い、渋幕生の仲間らとボランティア団体も結成、起業にも乗り出した。全国の異才が集う「孫正義育英財団」のメンバーにも選抜された。社会貢献や起業などに大忙しだが、現在はMITなど海外有名大を目指して学業に励んでいる。
なぜ新興の両校から「渋幕・渋渋の奇跡」といわれるほどの逸材が次々育っているのか。それは「多様性を嫌がらなかったからだ」と田村理事長は語る。
明治以来、日本の中等教育のスタイルは基本変わらない。同水準の教育レベルの同質な生徒を集め、均一な教育を提供してきた。しかし、1983年に創立した渋幕では、積極的に帰国子女や交換留学生を受け入れ、グローバルな人材育成を目指した。英語教育だけではなく、「自調自考」を是としたリベラル・アーツ(教養)に力を入れた。田村理事長自らが「校長講話(現在は学園長講話)」を実施、哲学や歴史など教養をテーマに全生徒と直接対話し、自分で考える軸をつくる機会を提供している。