奇抜な建築デザインを形に 舞台裏支えるエンジニア
『ARUPの仕事論』より
ブックコラム世界的に有名な建築プロジェクトが完成すると、一般的にニュースでは建築家の名前が表に出ることがほとんど。しかし、実際には建築家が描く奇抜なデザインや、構造や設備といった専門的な課題を解くために、華やかな舞台の裏でエンジニアたちが奮闘しています。そこにスポットライトを当てたのが、新刊『ARUPの仕事論』(日経BP)です。
Arup(アラップ)は、オーストラリアの「シドニーオペラハウス」をはじめ、国内では「関西国際空港」や「新国立競技場旧案」など、数々の有名プロジェクトに携わってきた総合エンジニアリング会社です。1946年の創設以来、英ロンドンに本社を構え、現在は世界33カ国に事務所を展開しています。
その強みは、個々の高い専門性と、全世界に広がる柔軟なネットワークづくりにあります。時には建築家をサポートし、時には対等に議論を交わしながら、ビッグプロジェクトの数々を完成に導く――。ここでは、アラップで長年活躍してきた2人のエンジニアのインタビューを紹介します。(聞き手は、編著者の日経クロステック・菅原由依子)
建築にとって正しいことを貫く
――ファサードエンジニアリングとは、どのような仕事なのでしょうか?

まつのぶ すすむ|1987年、東京理科大学大学院建築学専攻修了後、日本板硝子に入社。日本板硝子D&Gシステムの設立などに携わった後、2005年アラップ東京事務所に入社。ファサード部門のリーダーを務める(写真:アラップ)
建築家が描く奇抜な(個性的な)形を、構造面で問題がないか、環境面で問題がないか、それは建設可能か、どうやって建てるのか、どんな材料がいいのか……。そうしたことをエンジニアの立場からサポートしています。
おそらく、よほど建築に親しみのある人でないと、一般の人は聞いたことがない仕事でしょう。ひと昔前までは、あえて「窓屋です」という言い方をしたこともありましたが、今や窓と外壁の境目はなくなり、ファサード全般を担当しています。まだ日本でファサードの専門エンジニアが認知されていなかった時代に、私はこれを職業にしてしまったので、本当に何もないところから"耕して"きたと思います。
――職種自体がなかった時代があるのですね。ファサードデザインにはどのような変遷があったのでしょうか?
歴史的にファサードエンジニアが脚光を浴びたのは、構造設計者が外装設計でなかなか解けない、テンションワイヤなどのサブストラクチャー(外装のための二次的構造部材)の分野が台頭してきた時期でした。アラップでいえば、ピーター・ライス(1935 ─92年)がその代表格といえます。
ただし私がアラップに入社した2000年代にはそうした時代が終わりかけの頃でした。環境配慮型のファサードが増え始めていました。アラップは事務所内に環境設計のエンジニアもいて、日射制御や自然換気などの相談にも乗ってくれる。さらには、ファサードに限らず、建物全体の話もできるので、私にはとても刺激的な職場でした。