奇抜な建築デザインを形に 舞台裏支えるエンジニア
『ARUPの仕事論』より
ブックコラム
構造とファサードが融合した好例に、大日本印刷市谷工場整備計画の一部に当たる「I Project Skylight(アイ プロジェクト スカイライト)」がある。アクリル製のプリズムルーバーを構造の格子内に十字に取り付け、光を下階へ送る仕掛けとした。ファサードでは、そのトップライトの形や構造をいかにシンプルにするかを担った(写真:アラップ)
――今後、ファサードはどう変わっていくと思いますか?
ここ10年のトレンドは大きく4つあります。①サブストラクチャー②Ecological Sustainable Design(ESD、環境配慮型で持続可能なデザイン)③マテリアルコンサルティング④ジオメトリー。④は、ランダムに見える外装でも、そう見えるような法則性をうまくモデリングすることなどをジオメトリックエンジニアリングといいます。
超高層ビル以外でファサードエンジニアリングが求められるのは、ブランドショップの路面店です。最近までは、デザイン最優先で環境性能なんて気にしない依頼が多かったのですが、さすがに最近はSDGs(持続的な開発目標)の流れで環境性能が強く求められるようになりました。
既に、温熱環境と建物使用時に消費されるエネルギーについては多くの建築家が配慮しています。しかし、材料の製造時に排出した二酸化炭素ガス(CO2)を削減することや、その素材の再利用といったような総合的な検討はまだ少なく、我々はそこまで考えて材料や外装システムを提案しようと思っています。
すると、そんなもの使いたくないと建築家やクライアントから反対されることもあります。
この先、温暖化ガス排出に大きな制約が出ることを想定すると、今何を優先すべきかを説き、一歩先を見据え、その建築と社会にとって正しいと思うことを伝えなくてはなりません。我々は半分笑顔、でも真剣に、ときには汚れ役を引き受けることもいとわない覚悟が必要なのです。
未来に責任あるエンジニアリングを
――アラップには、ビルディングエンジニアリングチームが置かれています。城所さんは2021年にリーダーに就き、現在どのような分野に注目されていますか?

きどころ りょうた|1998年米国Cornell University Civil Engineeringを卒業後、米Thornton Tomasetti Engineersに入社。2000年アラップ東京事務所に入社。13年から同社東京事務所の構造部門リーダー、21年からビルディングエンジニアリングチームリーダーを務める(写真:アラップ)
構造も環境設備もファサードもライティングも総括している立場なので、私自身が手を動かすというよりは、デジタルやサステナブルの意識を高めていこうなど、方針を皆にプッシュしているところです。
建築家の仕事や作品を間近で見ていると、やはり人々に感動を与える重要な職業だと思いますし、それをぜひサポートしたいなと感じます。設計の過程で建築家とキャッチボールしているときの私は、端から見ても、たぶん一番生き生きとしているかもしれません。
ただし、建築家の仕事や建築の役割を広い視点で考えていくと、隣人への配慮、さらには未来の世代のためにどう役立つのかという発想に最終的に行き着くんです。建築がもたらす感動も大事ですが、やはり環境に配慮し、未来に責任あるエンジニアリングが強く求められるようになってきたと思います。
もともとエンジニアリングとは、常に効率化を目指し、最小限のマテリアルと最小限のエネルギーで建築を機能させ、快適にすることを実現してきた分野です。だから二酸化炭素(CO2)削減などに目標が至るのも、ごく自然な流れなんですよね。