奇抜な建築デザインを形に 舞台裏支えるエンジニア
『ARUPの仕事論』より
ブックコラム――城所さんの過去の作品から、建築家の三分一博志さんや、坂茂さんとの協働が多いように見受けられました。
はい、三分一さんとは20年近くのお付き合いになります。2016年に完成した「おりづるタワー」(広島市)は、1978年に建てられた旧耐震基準のビルを、広島マツダさんが事業主となって環境配慮型の改修に取り組んだ、ユニークなプロジェクトです。復興のシンボルとなることをコンセプトに掲げ、建物の「活性化」と「耐震補強」の両方を目指すものでした。
"環境配慮型の改修"というと難しい響きですが、三分一さんは少し変わった発想をしたんです。敷地の近くを川が流れているので、川沿いの風を積極的に利用し、従来は閉じることの多いオフィスビルをあえて開くように改修しました。我々はどこを開ければどれぐらい風が流れるのか解析を行い、それを見ながら計画を一緒に考えていきました。
私が一番気に入っているのはバルコニーですね。耐震補強をするため、建物の正面に巨大な門形フレームを新たに設置したのですが、それによってオフィスにバルコニーを追加でき、気持ちのいい空間ができました。
――エンジニアから先進的な提案を出しても、建築家の中には、自身のデザインにこだわる方も少なくないと思います。納得させるのは容易でないように想像します。
それは建築家にも、建物にも、クライアントにも、タイミングにもよります。エンジニアが本当に遠慮なく建築家と組み合える関係性を築くには、建物のビジョンにどう賛同できるかが重要です。エンジニアの目的は、それらのビジョンの力添えになることです。結果的に人々に感動を与えられる快適な空間が残るならば、それが一番の幸せだと思いますね。