経団連会長も新人とチャット 住友化学の「読書対話」
社会人1年目の課題図書また、多忙な役員が新入社員一人ひとりの感想にコメントを寄せることに感激する社員も少なくないという。
例えば、前出の『WHAT IS LIFE? (ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』についてある新入社員は「化学品製造に従事する者としては、サステナビリティー(持続可能性)への貢献は人一倍考える必要のある課題ですが、人類だけではなく地球上の全生命に対してその義務があるという考えは新鮮で(中略)改めてカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)などの持続可能な社会実現の必要性を実感しました」と投稿。これに対し、十倉会長はこう返した。
「貴君の感想文は、将来世代にサステナブルな生態系を残す必要性を再認識させますね。また著者は、『たった一回の生命誕生から枝分かれして育ってきた地球上の生命全体』のことを、いとおしく考える必要があるということを静かに、説得力を持って語りかけてきます。この本は本当に地球をいとおしくさせてくれます」

役員と新入社員の距離が近づいたと語る宮﨑さん
また、『脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流』を読んで、炭素の循環や廃プラスチックの有効活用への意気込みを投稿した社員に対し、同書を推した岩田社長は「いま、ケミカルリサイクル含め様々な開発プロジェクトに取り組んでいますが、住友化学グループの総力をあげて早期の技術確立に結びつけたいと、いつも考えています」と返した。宮﨑さんは言う。
「新入社員にとって役員は雲の上の存在でしょうが、『身近に感じることができた』『経営陣としての視点や高い視座に気付かされた』といった声も聞きました。一新入社員のコメントに幹部が丁寧に返信し対話する。そういう風通しの良い風土であることも感じてもらえたのではと思います」
若手社員から学ぶリバースメンタリング制度も導入
同社では昨年10月から、幹部層が若手の社員からITツールのトレンドや若者の消費性向などについての知見を学ぶリバースメンタリング制度を始めている。指導役であるメンターは通常上司だが、立場を逆転(リバース)させて若手が指導役になるのがミソだ。今回の推薦書籍を通じたやりとりも、幹部側にとっては新入社員の発想や若い世代の感じ方、考え方を知る機会になっている、と宮﨑さん。
「お互いに気づきを得て共に成長できる仕組みとして、来年度以降も継続する予定です。世の中の変化に合わせて新たな本も加わるでしょうから、累積のリストが500冊を超える日も遠くないかもしれません」
(ライター 石臥薫子)