「アンラーン」で思考をデトックス 新しい学びの作法
『Unlearn(アンラーン)人生100年時代の新しい「学び」』より
ブックコラム「一度手にしたものを失う恐怖」にはどう向き合うか?
柳川:僕は、経済学者として制度改革など政策を変えることに関わっています。それはそれでとても大事なことなんだけど、人々のマインドが変わらないと、結局社会は変わらない。日々、そう感じています。
為末:マインドを変えるなんていうと、何だか大げさな話のようだけど、一度経験すれば、それほど大変なことではないと気づいて不安もなくなって、繰り返すことができるはずなんです。みんながその経験知を持てるように、アンラーンという言葉をもっと社会全体に広げたいですよね。

柳川範之氏(左)と為末大氏(写真:尾関祐治)
柳川:世の中を変えるために、一人ひとりがアンラーンを。それと同時に、世の中なんて大きなことを考えなくてもいいから、個人として、よりハッピーに生きるためにも、ぜひアンラーンを、という願いもあります。
というのも、日本人って、すごく真面目に必死でがんばっている割に「幸福度」が低いでしょう。僕が10代後半を過ごしたブラジルは逆で、経済も生活もそれほどうまくいっているわけではないのに、みんなとても幸せそうなんです。もちろん、いろんな課題を抱えているから、見た目ほど幸せとは限らないけれど、それでも日々をハッピーに生きている感じがする。
日本人は「こうでないといけない」「幸せとはこういうものだ」という固定観念にとらわれ過ぎている感じがする。もう少し肩の力を抜いて、固まった価値観や考え方を揺さぶってみると、もっと楽になれるんじゃないかなと思います。
為末:固まった価値観や考え方を揺さぶるというのが、アンラーンの大切な考え方ですよね。これも、何かとても大きな話のように感じられるかもしれないけど、入り口は小さなことでいい。普段とちょっと違うことをやってみる。日常をパターン化させないように、ちょっとかきまぜる。小さいことから始めるんだけど、成し遂げられることは結構大きい。アンラーンというのはそういうアイデアなんじゃないでしょうか。
柳川:みんな構えちゃって「価値観の転換」とか「大変革を!」なんて考えちゃうんだけど、そんな必要はない。小さな積み重ねの逆で「小さな崩し」を日々やっていけば、マインドも変わるし、発想も変わっていくのだと思います。
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ここでは、本書の対談パートのうちの一部分だけを紹介した。書籍では、具体的なアンラーンの方法論や、日々の心がけについても紹介している。興味が沸いたら、ぜひご一読いただきたい。
(日経BP 宮本沙織)
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。中学卒業後、父親の海外転勤にともないブラジルへ。ブラジルでは高校に行かずに独学生活を送る。大検を受け慶応義塾大学経済学部通信教育課程へ入学。大学時代はシンガポールで通信教育を受けながら独学生活を続ける。大学を卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。『法と企業行動の経済分析』『東大教授が教える独学勉強法』など著書多数。
Deportare Partners代表。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。Youtube為末大学(Tamesue Academy)を運営。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2021年12月現在)。現在は執筆活動、会社経営を行なう。主な著書に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』などがある。