変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

遠くに行きたければ仲間と行け

自分はこれまで独りよがりだったという反省もあった。この時、杉原氏の心に響いたのがアフリカのことわざだった。

「早く行きたければ1人で行け。遠くに行きたければ仲間と行け」

酒は飲まず、取引先との宴席もすべてお断りというストイックな性格。一方でスポーツをこよなく愛し、時間を見つけては仲間とサッカーに興じる

酒は飲まず、取引先との宴席もすべてお断りというストイックな性格。一方でスポーツをこよなく愛し、時間を見つけては仲間とサッカーに興じる

杉原氏は自分が目指すべき「遠く」に到達するには仲間が必要で、仲間に自身の思考過程を伝えるにはその可視化・言語化が必須だと考えた。そこからヒトの意思決定メカニズムの解明という新たな挑戦が始まった。

16年には人工知能研究所の設立を見据え「7 SIGMA PROJECT(セブン・シグマ・プロジェクト)」を開始した。まず着手したのは、杉原氏の思考回路を模した「スギロボ」づくりだ。これまでの数万件におよぶ企業調査データや投資判断、成功や失敗を含めた結果、さらに投資の議論をした際のメモや音声、バイタルデータに至るまでを解析。その投資決定プロセスを再現可能なものとし、教育に使うのが目的だ。ちなみに「スギロボ」は「なぜ」を繰り返し問い、常に客観的データに精緻に分析する杉原氏が「まるでロボット」と評されたことから名付けられた。

特筆すべきは、同プロジェクトにはさまざまな異能が集結していることだ。アリの研究者、医学者、睡眠の研究をしている脳科学者、魚群探知などをおこなっている水産の研究者、統計学・複雑系の研究者……。まさに「知の統合」だ。

そうしたメンバーと究極的に目指すのは「ホワイトなAIの開発」。現状のAIは機械学習の技術で大量のデータを自律的に学習し、アルゴリズムを自ら磨いていくが、その過程でAIが何を学びとり、どういう根拠で判断をしているのかは人間にはわからない。そのブラックボックスの中身を明らかにしたいという。ただし、「そのハードルは今のところ極めて高い」。

挑戦続ける起業家集団へ

そのため、研究所長が中心になり、研究の中で発想したアイデアを事業化することで、今ある社会課題を解決する事業も始めた。その第1弾が、21年グループ内に立ち上げた子会社「エフバイタル」で始めたバイタルセンシング事業だ。アルゴリズム処理することで心拍数などのバイタルデータを非接触で取得する技術を開発。個別対応型の教育プログラムや商品の開発、育児負荷軽減につながる発達支援アプリ開発などにつなげていくという。

「例えば大人から見て『この子は楽しそうに遊んでいる』と思ったとしても、本当にその子は楽しんでいるのかはわかりません。でも脈拍や体温などのデータを使って科学的にそれがわかれば、真に子供が夢中になれるおもちゃや、あるいはそういうプログラムを提供できる保育園を作ることに役立つはずです」

これまで機関投資家として「ハヤテインベストメント」ばかりが注目されてきたが、杉原氏は「もはや我々のグループを金融機関と呼ぶのは間違っている」とまで言い切る。では、一体どういう表現がふさわしいのか。

「挑戦を続ける起業家集団、研究開発集団、でしょうか。『エフバイタル』は情熱を持つ社員が研究者とともに立ち上げた会社であり、私は活躍の場を設定したにすぎません。私自身はまた新たな事業の立ち上げを検討しています。挑戦者を支え、挑戦者を増やし、自ら挑戦者になることで、社会の温度を上げていくことが我々のミッションです」

大学時代に起業を目指してから20年余り。そのベンチャースピリットは衰えないどころか、ますます強くなっているようだ。

(ライター 石臥薫子)

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック