育休中にキャリア棚卸し つかみ取った子会社社長の道
GPTWジャパン代表 荒川陽子氏(下)
キャリアの原点思い出した父の口癖
キャリアの選択肢として「経営者」が見えた時、思い出したのが、幼い頃から父が酔っ払うたびにつぶやいていた「サラリーマンになるより、自分で経営する方が100倍面白い」というせりふだった。
「私自身はサラリーマンの道を選んだのでそれを卑下するつもりは全くないのですが、もしも社長という立場になれたら、目の前に違う風景が広がって、人生がより面白くなるんじゃないか。そんなふうに思えて、ワクワクしてきました」
荒川氏はそれを育休中の妄想に終わらせず、実現する具体的な方法を考え続けた。現実問題として、従業員500人規模のリクルートMS本体で一足飛びに経営陣になるのは難しいだろう。ならば子会社のGPTWジャパンだったらどうかーー。
GPTWは米国に本部を持つ調査機関。毎年1月に米フォーチュン誌で公開される「Best Companies to Work For in America」のランキングは、そこに名を連ねることが「優良企業の証」とされるほど信頼されている。米国をはじめ世界約60カ国で使われている世界共通の物差しで日本の企業を調査し、働きがいのある会社を増やしていくのがGPTWジャパンのミッション。そこに深い共感を覚えた。子育てをしながら仕事に復帰し、いかに「働きやすさ」と「やりがい」の両方がそろっていること、すなわち「働きがい」が大事かを痛感したことも大きかった。
育休から復帰後の1年間、リクルートMSで産前と同じ営業マネジャーとして働きながら、上層部に自分の思いを伝えて回った。その結果、社会人になって初めて本気で出した異動希望が通り、19年にGPTWジャパンに出向。20年4月、代表に就任した。
就任して最初に取り組んだのは、無料プランの廃止だった。それまでは「働きがいのある会社」のランキング調査への参加のみで、結果についての詳しいフィードバックが不要なら無料、というプランがあったが、それをやめて全て有料化した。
「有料ではありますが、私どもがお出しするデータは、お客様が自社の働きがいを上げるため、PDCA(計画、実行、評価、改善)を回す際にとても役に立つ、価値ある情報なんですよという点を強く打ち出しました。お客様に価値を感じてもらって相応の対価を得ることを当たり前にしたいと思ったのです。結果として、当社の利益率は飛躍的に改善しました。リクルートグループ内の隅っこにいる会社という位置付けではなく、グループ内でも外でも存在感を増していきたい。そのためには利益を上げられる強い事業体になる必要があります」
強みである「段取り力」「決める力」を発揮し、社内の作業工程の見直しにも着手し、「やらないこと」も決めた。その結果、社員の残業時間が減り生産性が上がったという。だが、一番こだわっているのは、自分自身の生産性だ。「基本的には夕方5時までしか働けないので、私自身が誰よりも生産性高く働かないといけないんです」と笑う。