変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

フェイスブックは既に世界で月当たり利用者が約10億人にまで広がり、再生産の時期に入っていた。多くの人により「長い」時間使ってもらえるように機能を追加し続けた。利用時間さえ延びれば機能は「なんでも」よかった。利用者が長い時間使っていれば、大量の広告が打てる。社員が広告の中身をチェックすることも基本的にはなく、機械が自動的に最適な人に広告を流してくれた。大量に自動でさばくのだ。

だがインスタグラムは違う道を歩んだ。利用者がコンテンツを大量に投稿すればいいとはせず、投稿すべき望ましい写真の「質」を伝えようとした。そのために、社員が好ましいと思う写真を自ら選び、公式のアカウントで紹介するようにしたのだ。広告もハイブランドの出稿者を選び、1日1社しか出稿できなかった。広告の写真もシストロム自身がその品質をチェックした。人の目で質を育てたのだ。

2つの正反対の組織は、ザッカーバーグが与えた「独立性」に加えて、フェイスブック側から送られてくる「仲介人」によって、バランスをとって共存していた。買収後初期はフェイスブック社員のエミリーが、フェイスブック社員のインスタグラム利用率が低いことを突き止めて、社内で普及活動を行った。さらに彼女はインスタグラム拡大のために必要な人材を、フェイスブック側から調達してきたりもした。まさに古い組織と新しい組織の橋渡しだ。

だがこのバランスも長くは続かない。ザッカーバーグは事実上インスタグラムの「独立性」を剥奪しにかかった。2016年ごろからフェイスブックの利用時間が減ってきたのだ。ザッカーバーグはそれを、インスタグラムなどの他のサービスに利用者が目移りしているからだと考えた。

当時インスタグラムも利用者が10億人にまで拡大しているにも関わらず、必要な投資も許されなくなった。フェイスブックからインスタグラムへのリンクも外され、顧客の流入も制限された。こうした扱いに耐えられなくなったシストロムは、自ら会社を去ることになる。

イノベーションを標榜しているリーダーも最後は政治を優先する

新しいインスタグラムのリーダーはフェイスブック社員のモセリだった。彼はシストロムのやり方を踏襲しつつも、会社でうまくやるためには、「自分の考えを棚上げし、言われた通りにする必要がある」とわかっていた。写真の質を重視したはずのインスタグラムにフェイスブックの方法論を当てはめ、インスタグラムには大量の広告が流れるようになっていく。

イノベーションは政治に負けた。そしてその決定は、古い組織を壊せ!と息巻き、新組織に独立性を約束したリーダー本人の手で行われたのだ。

 丸健一
 2009年、一橋大学公共政策大学院卒、野村総合研究所入社。大手企業社長・役員のメンターとして戦略策定、海外展開支援を手がける。研究者へのコンサルティングスキル移転などエバンジェリスト育成にも注力。自社コンサルティング事業本部の教育担当も2年間務める。慶応義塾大学卒、ロンドンビジネススクールMBA。

LOONSHOTS<ルーンショット> クレイジーを最高のイノベーションにする

著者 : サフィ・バーコール
出版 : 日経BP
価格 : 2,200 円(税込み)

インスタグラム:野望の果ての真実

著者 : サラ・フライヤー
出版 : NewsPicksパブリッシング
価格 : 2,640 円(税込み)

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedoNIKKEI SEEKS日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック