さらば、"昭和型オジサン企業" 30歳からの越境転職
ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行
次世代リーダーの転職学自分が身動きできなくなる前に脱出したい
「35歳を超えると、住宅ローンや教育の問題など、自分以外の家族の環境問題も増え始めるようで、40歳に近づいてしまうと身動きができなくなる先輩がたくさんいます。今年30歳になる自分は、脱出するとしたら、今がラストチャンスかもしれないと考えています」(Bさん)。
まさにこの言葉の通り、"昭和型オジサン企業"から自分の意思で脱出していく若手は、20代後半から30代前半に多く分布しています。
このパターンで転職する人の特徴は、業種や職種などのこれまでの経験を捨てて、異業種や異職種など、越境転職者が多いことにあります。働く価値観や組織文化は、企業固有のものではありますが、業界特性や職種特性が影響することも多いので、閉塞感を感じる因子を遠ざけたい場合は、業界を変えたり仕事そのものを変えたりする人が増えるのは、当然の結果なのかもしれません。
ちなみにリクルートキャリアの「転職決定者分析」(2021年1月)によると、異業種に転職する人は、全転職者の約7割を占めるということです。転職市場全体としてみても、異業種への転職は決して珍しいことではなくなりつつあるというのが現実です。
たとえ30歳以上の転職であっても、異業種への転職は必ずしも難度の高いものではありません。「ポータブルスキル」といわれる、業界を超えて通用するスキルや経験があれば、異業種でも十分に能力をアピールすることが可能です。
ただし、30代になると、マネジメント経験を求められるケースは増えてきます。人材の育成や任された組織で生み出した業績など、マネジャーとしての具体的な実績や経験を整理してアピールできると、有効な武器になりえます。
異業種の転職で、比較的人気が高い業界は、やはり成長産業として注目されることが多いIT(情報技術)・ウェブ関連の業界です。特に成長が著しいBtoB(企業対企業)のクラウドサービスをはじめ、こういった分野では求人の総量が激増しています。
高齢化先進国として、IT活用と連動して今後さらに成長が予測される医療・福祉業界も注目度が高まっています。未経験から始められる仕事も多くあり、厚生労働省「雇用動向調査(2020年上半期)」によれば、新たな入職者が約76万人と、国内最多の業界となっています。
職種の観点で人気が集まっているのは、次の3つです。
1)マーケティング
売り上げや収益に直結するマーケティング職は、データ分析力や企画立案力が強みの人にとっては需要が多く、付加価値もますます高まっている職種です。経営企画的な職務のほかにも、デジタル領域での科学的な集客・プロモーションなど、多様で裾野も幅広い職域ですが、異業種への転職がしやすい汎用的な職種の1つです。
2)法人向け企画営業
コミュニケーション力、交渉力、顧客管理力、社内調整力など、営業で身に付けたスキルは最も多くの業界で必要とされるスキルです。有形物の営業をはじめ、無形の商品サービス、売り切り型の商品、サブスクリプションモデルの販売など、商品・サービスは多様ですが、自らの企画提案力をうまくPRできると、異業種への転職の可能性が大きい職種といえるでしょう。
3)ITエンジニア
デジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、ITエンジニアはまだまだ不足しています。これから技術を学んでいく覚悟があり、学びに手間をかけられるのであれば、無限の成長可能性が期待できる仕事と言っても過言ではありません。システム開発やソフトウェアの保守・運用が主業務である従来型のIT企業だけではなく、建築、教育、医療、金融、物流など、あらゆる業種でエンジニアが必要とされています。
今すぐ転職はできないと考えている人に伝えておきたいことは、「転職する」ということと、「転職活動をする」ということは、全くの別物だということです。転職活動をしても、内定がもらえるかどうかはわかりません。もし内定が出たとしても、受けるかどうかは自分に決定権のあることです。少なくとも、中途採用市場において、自分にどんな選択肢や可能性があるのか、実際にどんな企業があり、風土や価値観が合う企業があるのかどうかは、活動してみなければわかりません。
「いつかは転職することになるだろう」と考えているのであれば、現実に転職するかどうかは横に置いて、早めに転職活動だけでも始めておくことをお勧めします。ぜひ、今回お伝えした情報を参考に、今後のキャリアづくりをじっくり検討してみてほしいと思います。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。

黒田真行