リスキリングで取得したい人気資格15選! 注目は?
知っておきたいリスキリング
産業構造の変化に対応する人材が求められる昨今。資格は自身の価値をわかりやすく証明する重要なカードの1つだ。しかし苦労して取得しても、実際にキャリアアップに生かせなければリスキリングの意味がない。この記事では、自分に合う分野の見つけ方や注目の資格を解説する。
資格取得はリスキリングにどう役立つ?
リスキリングとは「これまでの業務とは異なる分野の知識や技術を、新たに学んで身につけること、身につけさせること」を意味する。
例えば2023年7月、ニトリホールディングス(HD)が「全社員の8割にIT系の国家資格『ITパスポート』の取得を促す」と発表したのは、まさにリスキリングの好事例だ。競争力向上のため、企業が資格を積極活用した格好だ。
まずは資格や検定がリスキリングにどう役立つのか、2つの点を確認しておこう。
メリット① スキルをわかりやすく証明し、自身の市場価値を高める
資格はある分野における一定水準のスキルを所持していることを、誰にでもわかりやすく証明するカードだ。求人の要件や、社内昇格の条件とされていることもある。
個人にとって例えば以下のようなケースは、リスキリングの成功例といえる。
・Aさん(30代・事業企画)
データ解析の資格を取り、データに基づいた事業計画で成果目標を達成して社内等級が上がった
・Bさん(20代・サービス業)
情報処理とプログラミングの資格を取り、エンジニアに転職して年収がアップした
これまでのキャリアと資格とを組み合わせた結果、Aさんは「データ解析×事業企画」、Bさんは「サービス現場での経験×エンジニア」とアピールできるようになった。
メリット② 目標を達成した経験が強みになる
ほかにも目標設定や長期的学習を通じて期待できる副次的なメリットがある。
1つ目は「目標達成によって自己肯定感が高まり、積極的に仕事に取り組めるようになる」点だ。さらに新しい分野の知識を体系的に学ぶことを通じて、業務の中に新たな課題や解決方法を見つけられるケースがある。
2つ目は、職場や取引先以外に「専門性を持つ人材とのネットワーク」が生まれる点だ。同じイシューへの関心を持った仲間と知り合って互いに成長を見届け合うことは、ビジネスパーソンとして大きな刺激となるだろう。
メリット③ 離職率を下げ、業界の中での競争力を上げる
組織が従業員の資格取得をサポートすることにもメリットがある。
成果の見えやすい目標を提供することで、従業員個人のやりがいやモチベーションを維持し、離職率の低下をもたらすこともある。また資格を利用して「従業員全体のスキルを底上げする」「内部人材のスキルを多様化する」といった戦略で、業界の中で競争力を高めるのも一案だ。
リスキリングで資格取得を目指すときの注意点
しかし結果としてキャリアに生かせなければ成功とは言いがたい。注意しておきたいポイントを3つ紹介する。
注意点① 資格「だけ」で評価が上がるわけではない
資格は知識や技術を証明するカードにはなるが、成果や実務経験までを保証するものではない。転職市場ではむしろ成果や実務経験を重視する。資格はあくまでも「実務経験にプラスで組み合わせるもの」。仕事で成果を出すことの優先度を下げてはいけない。
注意点② 自分に合う資格の見極め、動機づけが難しい
継続的な学習には根強いモチベーションが必要になる。これまでにチャレンジしたことのない分野であればなおさらだ。あいまいな動機で資格を選ぶと挫折する可能性が高い。
「何となくつぶしが利きそう」「知人が取っているから自分も取れそう」や「時間があったから」といった理由で決断していないだろうか。
転職市場においては、履歴書に業務と関連しない資格を記載していると「無目的に取った」と判断される可能性がある。資格に挑む前に「こういうビジョンに基づいて選択した」という目的意識を明確にしておく必要がある。
注意点③ 資格の中には効果が不確実なものもある
さらに資格の中には、その効果が不確実なものも存在する。「めざす業界や業種で知名度が低い資格」や、「取得者が多く、すでに希少性が乏しい資格」ではないだろうか。
また資格の価値は、法制度の変更やビジネストレンドの影響を受けやすい。「いつか使おう」と考えているうちに「使えない資格」になってしまうこともよく起こる。使うタイミングと使い方までを想定して、学習に取り組もう。
□ 資格はわかりやすく知識・スキルを証明するが、実務での成果も不可欠
□ 企業が資格取得を推奨・サポートすることにもメリットがある
□ 無目的な資格取得は、かえって評価を下げるおそれも
資格選びで失敗しないために 適した分野を見極める3ステップ
1.キャリアの目標を明確にする
チャレンジする資格を選ぶ前に、まずは自分のキャリアの方針を定める必要がある。例えば以下の3つであれば、どの方向にあてはまるだろうか。
②転職する
③独立・起業する
仮に①の場合でも、転職を視野に入れてみてはどうだろうか。転職市場で勝負できるレベルの人材になれば、社内での条件交渉も進めやすいからだ。
2.目指す業界・業種での成功点をイメージし、資格分野を絞り込む
先のAさん、Bさんの事例でいえば、資格取得後に「データに基づいた事業計画で成果目標を達成」したり「エンジニアに転職」したりする結果までが1セットだ。「資格を生かして成功する姿」をしっかりと脳内に描こう。キャリアプランのゴールに関連する資格分野を絞り込むとよいだろう。
なお「成功」のイメージは人それぞれで、「ゼロスキルからの底上げ」「同業種で好条件の企業へ転職」「高収入の業界に異業種転職」「雇用形態に関わらず、専門性を武器に仕事をする」など、どのレベルでもリスキリングに取り組む意義はある。
3.資格の転職・人材市場での需要と将来性をリサーチする
目指す分野のうち、どの資格に需要と将来性があるのかをしっかりリサーチしよう。
転職サービスで求人情報をチェックし、必須あるいは歓迎要件として明記されているか調べてみるのも有効だ。特に「収入が高い業界・業種」で「必須要件に該当する数が多い」資格は「転職に役立つ資格」といえる。
□ 「同僚との差別化」から「専門性で独立」まで、どのレベルでも挑む意義はある
□ 目指すキャリアのゴールから逆算して資格分野を絞り込む
□ 求人情報や転職・人材サービスが公開しているデータもリサーチに役立つ
資格を生かせる可能性のある、注目の4分野
デジタル・IT分野
まずはデジタル・IT分野。中でも特に需要が高いのが「ビッグデータ」「人工知能(AI)」「デジタルマーケティング」「クラウドコンピューティング」「サイバーセキュリティー」などのカテゴリだ。
世の中のあらゆるサービスがこれらを利用して急激な変化を遂げているのに対し、それを管理できる人材は世界的に不足している。
建築・建設分野
2つ目は建築・建設分野だ。これには2024年4月に「働き方改革関連法」の猶予期間が終了することが影響している。
かつての建築・建設業は、長時間労働や休日出勤が常態化し、従業員の高齢化や若年層の離職率の高さが課題だった。より働きやすい業界に変わるために各社が人材拡充を急いでおり、建築士や施工管理技士などの資格を有する技術者が求められている傾向にある。
経理分野
3つ目は会計や税務などの経理分野だ。数字から会社の経営状態を把握する資格の価値は根強く、手堅い。
特に高度な知識が必要な公認会計士や税理士などは、需要と希少性がともに高い注目の分野だ。転職での必須要件として挙げられる求人数が多いのに対して保有者が少ない。
語学分野
最後は語学分野だ。現代は企業活動のグローバル化が進んでおり、海外とのやりとりが不可欠な現場が増えている。言語スキルは国際市場での競争力を高める要素の1つ。特に「英語力の指標が高い人ほど年収も高い」というのが、転職・人材業界での通説だ。
□ デジタル・IT分野は資格のジャンルや難易度の幅が広く、初学者でも取り組みやすい
□ 人材市場での需要が手堅く希少なのは、建築・建設分野と、経理分野の資格
□ 高い英語力を証明する資格は、年収アップにつながる傾向
リスキリングで人気の15の資格 転職やキャリアアップにどう生かせる?
ここからは人気の15の資格を解説する。「ゼロスキルを脱する」入門編的資格から「転職に有利に働く」資格まで、幅広くピックアップした。
【国家資格】建築士
「建築士」は等級によって登録機関が異なる。1級建築士は「国土交通大臣」が、2級建築士は「各都道府県知事」が指定登録機関を通じて登録する国家資格だ。「2級は戸建て住宅程度の建物を、1級は規模制限なく建造物を設計・工事監理できる」と、建築士法で定められている。
建築士や施工管理技士は必須要件とされる求人の数に対して保有者が少ないため、賃金も上昇傾向。「転職に有利な資格」の1つに挙げられる。また建設業界以外でも、建物や工場を所有する企業で重宝される事例が少なくない。
【国家資格】公認会計士
「公認会計士」は金融庁の「公認会計士・監査審査会」が認定する国家資格だ。企業の経営状況が法律や会社の規則に反したり逸脱したりしていないかをチェックする「監査証明」を行う知識とスキルを証明する。公認会計士の登録には試験に合格することと、実務補習もしくは実務経験が条件となる。監査のほか会計や税務、コンサルティングに携わることもある。
ちなみに「米国公認会計士(USCPA)」の資格も転職求人の要件に挙がることが多い。日本の公認会計士よりも基礎的な知識を要する代わりに、英語力と実務経験が重視される。
また公認会計士の資格を取得すると、税理士としても登録が可能だ。
【国家資格】税理士
「税理士」は国税庁の「国税審議会」が認定する国家資格だ。会計学や税法の専門的な知識を証明する。税務のプロとして、事業者の税務代理やコンサルティング、組織の会計業務などに携わることができる。
定年がない職業として登録者・受験者の年齢層が上がっており、逆に若手の税理士は少ない傾向が見られる。
公認会計士・税理士は建築士と同様難関試験だが、人材市場では希少性があり、なおかつ意外とさまざまな業界で役立つこともあり、汎用性にも期待できる。
【国家資格】ITパスポート
「ITパスポート(iパス)」は経済産業省のIT政策実施機関である独立行政法人「情報処理推進機構(IPA)」が認定する国家資格だ。社会人が業務でITを扱う上での総合的な基礎知識を持っていることを証明する。
幅広い業種の企業で従業員のスキル開発に活用されている。受験料を支援する、合格者へ報奨金を出す、昇格の条件に採用するなどの事例が多い。特に近年は金融・保険、不動産、営業・販売などの「非IT系企業」での伸びが大きく、組織全体のデジタルリテラシーの底上げに活用されている傾向がある。2022年度の受験者は、20代が43%と最多だが、40代も28%を占めている。
【民間資格】MOS(マイクロソフト・オフィス・スペシャリスト)
「MOS」は米マイクロソフトが認定する民間資格だ。ExcelやWordなど、「Office」製品の利用スキルを証明する。日本のみならず世界各地で試験が実施されているので国際的な認知度が高い。
取得した従業員の88%が「仕事の成果が上がった」と回答。普段からPCやITに触れる「現代の社会人の基礎スキル」として内定者や新入社員の研修に取り入れている企業もある。
「ITパスポート」や「MOS」は、ゼロスキルの枠を抜け出したいミドル世代社員、ブランク後の再就職を目指す人などが狙いたい基礎的な資格だ。これだけで人材市場で優位になるわけではないが、一歩を踏み出す鍵になるだろう。
【民間検定】統計検定
「統計検定」は一般社団法人「 日本統計学会」が認定する民間資格だ。統計についての知識や活用スキルを証明する。
統計学はマーケティングなどに活用されているほか、機械学習やAI技術などの分野でも高度な統計処理技能が不可欠となっている。特に経営企画や事業企画などの企画系職種では、データという科学的根拠に基づいた戦略を立案・判断できる人材が重宝される。
検定は4級から1級までの5段階の階級を基軸に、より実務スキルを重視する「統計調査士」や「データサイエンス(DS)」などを含め、全部で10の種別がある。2級取得が「データサイエンティスト」と名乗れる条件とされる。
データサイエンティストは日本では不足気味で、IT系業種の中では年収が高めの傾向にある。
【民間資格】Python3エンジニア認定試験
「Python(パイソン)3エンジニア認定試験」は一般社団法人 「Pythonエンジニア育成推進協会」が認定する民間資格だ。プログラム言語「Python」を扱う専門スキルを証明する。上位資格として「実践試験」「データ分析試験」がある。
プログラム言語にもさまざまなものがあるが、Pythonはコードのわかりやすさと汎用性の高さが特徴の1つで、未経験の人にも学びやすい言語といえるだろう。さらにビッグデータの解析や機械学習・人工知能(AI)開発とも相性が良いため、近年、特に人気の高まりを見せている。Pythonエンジニアは全世界で不足しており、市場での需要も高い。
【民間資格】AWS認定資格
「AWS認定資格」はエンジニア向けの国際的な民間資格だ。AWSはAmazon Web Servicesの略で、米アマゾンが提供するクラウドサービスのこと。この認定ではクラウドの専門知識や、AWS上でのアプリを開発するスキルを証明する。初心者からプロレベル、専門知識特化まで10以上の認定資格を用意する。
AWSはクラウドサービスの中でも世界トップのシェアを誇り、幅広いサービスと機能を提供。柔軟性や安全性への評価も高く、ECサイトからアプリゲームまで、多くの身近なITサービスのインフラとして世界中の多くの企業が採用している。
【国家資格】情報セキュリティマネジメント
「情報セキュリティマネジメント(SG)」は独立行政法人「情報処理推進機構(IPA)」が認定する国家資格だ。組織が扱う機密情報や個人情報をリスクや脅威から守る、基礎的な知識とスキルを証明する。
サイバーセキュリティはDXの中でも人材が求められているカテゴリー。基礎知識を学んだ先には、同法人が運営する「ITストラテジスト(ST)」や「プロジェクトマネージャ(PM)」など、マネジメント人材向けのより高度で専門的な資格群がある。
情報セキュリティマネジメントはIT企業のほか、メーカーや病院、金融など、多数の顧客情報を扱う組織を中心に、国内で豊富な活用事例がある。
【民間検定】日商簿記検定
「日商簿記検定」は日本商工会議所および全国の商工会議所が認定する、歴史ある民間検定だ。企業の経済活動の基本であり、物や金の出入りを記録する「帳簿」を付けるスキルを証明する。
3級はあらゆるビジネスの基本となる商業簿記で、2級は3級の応用や原価計算など工業簿記の範囲を含む。1級はさらに高度な企業会計関連の法規などを網羅し、数字を見て経営分析ができる水準。2級以上があると企業からのニーズが高い。
「公認会計士や税理士への登竜門」とも言われ、それらを目指す最初のステップとして取得する人も多い。
【学位】MBA(経営学修士、経営管理修士)
「MBA(経営学修士、経営管理修士)」はMaster of Business Administrationの略称で、資格ではなく大学院で経営学を修了した人に授与される学位だ。経営戦略やマーケティング、財務・会計、人材管理など、マネジメントの実務に関する網羅的な知識とスキルを持つことを証明する。
MBAの保有者は一般的に年収が高い傾向にある。外資系の金融やコンサルティングなどのハイクラスな専門職で、MBAホルダーを積極的に採用している事例もある。難易度は極めて高いが、高収入業界にチャレンジするのに最も現実的な選択肢の1つといえるだろう。
【国家資格】ファイナンシャル・プランニング(FP)技能検定
「ファイナンシャル・プランニング(FP)技能検定」は、厚生労働大臣の指定試験機関であるNPO法人「 日本FP協会」が認定する国家資格だ。家計管理や資産運用などの総合的な知識をもとに、個人のライフプランや法人の資金計画を提案するスキルを証明する。
特に銀行や証券、保険業界では2級以上の取得を推奨しているほか、税理士事務所、不動産会社などで活躍できる場合がある。ただし年収アップにはあまり関連しない。個人営業に携わる人が、他の人材との差別化を目的に目指すケースがある。
【国家資格】中小企業診断士
「中小企業診断士」は経済産業大臣の指定試験機関である一般社団法人「 中小企業診断協会」が認定する国家資格だ。中小企業の経営状況を診断し、課題解決や成長戦略についての助言を行うスキルを証明する。
経営コンサルティング企業、融資を行う信用組合や信用金庫などの金融機関、公的機関、一般企業の経営企画や事業開発部門など、幅広い業種で生かせる。
ただし公認会計士や税理士と比較すると「業務独占資格」ではない。取得後すぐに役立てられる業務があるわけではない点には注意が必要だ。
【国家資格】宅地建物取引士
「宅地建物取引士(宅建士)」は一般財団法人「不動産適正取引推進機構」が認定する国家資格だ。不動産取引に関する専門知識を有していることを証明する。
毎年20万人近くが受験している人気資格で、不動産を扱う企業には「5人に1人以上の有資格者を配置する」義務がある「独占業務資格」だ。合格後は2年以上の実務経験か、実務講習の修了で「宅地建物取引士」として登録することが可能。不動産業の他にも、住宅ローンを扱う金融業や住宅販売まで手がける建築業、出店戦略や店舗管理が重要な小売業などでも需要がある。
【民間試験】TOEIC
「TOEIC」は「Test of English for International Communication」の略称で、「英語を母国語としない人」を対象に英語によるコミュニケーションスキルを計測する国際的な語学試験だ。
国家公務員の総合職採用試験では、一定水準のスコア取得者に加点を設ける。TOEICの水準スコアは「600点」と「730点」。国内の一般企業で採用や昇進の基準となるのは「600点」からが多い。
なお「日経転職版の大卒年収調査2022」によると、日経転職版会員のうちTOEICスコアが高い層は平均年収も高いという結果が見られた。600点台と700点台とで約54万円の差があり、以降100点台上がる層ごとに、年収も約50万円アップ。MBAと同様、TOEICのスコアと年収とには相関があった。
(ライター 今岡由季恵)