首相、リスキリングで「新しい働き場所目指す人応援」
「日経リスキリングサミット」座談会
リスキリングtopics中小企業における学びが課題
藤井 今から7年前にアメリカのユーデミーと弊社で業務提携を結びました。デジタルやDX(デジタルトランスフォーメーション)などのスキルを習得できる映像を配信するサービスです。そして、2019年から企業向け研修サービスも提供しています。導入社数は現時点で900社を超えています。各種調査で、日本の社会人は主要先進国の中で最も学ばないというデータが散見されていますが、デジタルやDX人材と言われる個人の方々、あるいは大企業においては、リスキリングはかなり進んできております。しかしながら、中小企業における学び、そして日本全体を見渡したリスキリングについては課題が多くあります。

ベネッセコーポレーションの藤井雅徳執行役員
この社会課題を解決するうえでのヒントは、全国の自治体や各地の大学、短大、専門学校などの高等教育機関との連携・協働にあるとわたしたちは思っています。現時点で40を超える自治体、そして50を超える高等教育機関の皆様と様々なプロジェクトをスタートしたところで。そこで見えてきたことをこれから社会発信していきたいです。
内山 やはり中小企業を含めた日本全体のリスキリングというのはなかなか簡単ではないですが、スピード感を持って進めないと、長期停滞の日本経済を再浮揚させることは難しいのではないかと思います。これは企業の努力だけでは遅くなってしまいます。やはり政府の出番のような気もします。あらためて、岸田政権のリスキリングへの考え方をお聞かせ願えないでしょうか。
イノベーションと賃上げの好循環実現が大事
岸田 今、わたしたちだけではなく世界中の国々が、グリーンやデジタル、こういった社会的な課題を成長のエンジンにすることによって持続可能な経済をつくっていこうという議論を進めています。グリーンやデジタルという分野は、非連続的なイノベーションが次々と起こる世界です。こうして次々と起きてくるイノベーションに対応して、労働力移動が必要になってきます。このあたりが、かつての日本の高度成長、つまり1つの目標や目安があって成長していった時代とは違います。
これは企業の立場に立ってみると、賃上げにより高いスキルの人間を引き付け、結果として企業の生産性が高まり、イノベーションが進む。それがさらなる賃上げにつながっていく。こういった好循環を実現することが大事です。こうした時代の変化の中で、リスキリングの重要性が強調されています。官民協力して、思いを皆さんと共有しながらリスキリングについて考えていきたいです。
内山 ありがとうございます。岸田政権は、人への投資を5年で1兆円のパッケージにするとおっしゃっています。官民で取り組むリスキリングについて、具体的にどんな政策で後押しをしようとお考えでしょうか。
経済総合対策で3つの政策拡充
岸田 まず基本的な考え方として、人への投資と労働移動の円滑化と、そして所得の増加、これを一体的に進めていかなければならないと思っています。「人への投資」と「企業間の労働移動の円滑化」を同時に進めることで、リスキリングした人材が、賃金の高いところやよりやりがいを持てる場所で活躍し、企業の生産性を向上し、さらなる賃上げを生むという好循環を作っていくことが重要です。
そのために、人への投資策を5年間で1兆円に拡充をするのですが、それとあわせて今月中に取りまとめる総合経済対策の中で3つほど大きな政策拡充していきたいと思っています。まず1つは企業間、あるいは産業間の労働移動の円滑化に重点に置いて、受け入れる側の企業、すなわち非正規雇用を正規雇用に転換する企業や、転職・副業を受け入れる企業への費用面での支援策を新設し、拡充したいと思っています。
また、2つ目として、キャリアアップのために転職などを実現したい人に対し、民間の専門家にも相談しながら、リスキリングから転職までを一気通貫で支援していくような制度を新設したいと思っています。そして、(3つ目として)その橋渡しをする企業すなわち、労働者の訓練等を支援するような企業に対する支援金の補助率を引き上げることによって、リスキリングを応援していく。これを今月まとめまとめる総合経済対策などに盛り込んでいきたい。そして、来年6月までに労働移動円滑化に向けた指針を政府としてまとめることによって、大きな方向性を示します。年功賃金から日本に合った形の職務給への移行、こうした大きな方向性も示していくことを考えていきたいです。
内山 総理から非常に重要な発言があったと受け止めています。私の考えですが、これまでの日本の労働政策は、失業対策、すなわちセーフティーネットに重点が置かれていました。今後はセーフティーネットをしっかり維持しながら、社内、あるいは転職・副業を通じた企業間、産業間の労働移動を重視していくんだと、ある種大きな政策の転換を目指していると受け止めました。5年で1兆円を投じるわけですから。一人も取り残さないリスキリング、あるいは失業なき労働移動、こういった方向性を目指しておられるということでよろしいでしょうか?
岸田 セーフティーネットについては、政府として社会として維持していくことは大事だと思っています。しかし、前向きな意味でキャリアアップを目指す、新しい働き場所を目指す方々を応援する。こうした姿勢は大事です。こうした思いで政策を用意しているということです。