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どんな企業で働きたいか答えられない

一方で、転職者側の動きはどうでしょうか。ボランティアで転職相談に乗っている筆者の立場からすると、転職者側にも1つ驚くような傾向が見られます。

それは「全く準備をしていない転職者」の存在です。「どんな業界で働きたいのですか」と尋ねても、漠然としていて具体的な希望がない人が増えています。

本当は有名企業で働きたいのに遠慮してそれを隠す人は昔からいましたが、そういうタイプでもありません。有名企業志向の人は、一度そうだと明かすと、企業名を無数に挙げて「この中で求人枠を紹介してもらえないか」などと言ってきます。10年前には「できれば年収1000万円は欲しい」などと言っていたタイプです。

こうした人の相談に乗るのも楽ではありませんが、「○歳でいくら欲しい」と具体的な希望を言ってくれるので、希望年収に合った仕事を目標として紹介できます。目標と本人の能力・業務経験が見合っているかは別問題ですが、それは本人の努力次第です。

このように何らか本人の意思があり、志望企業を2、3社挙げてもらえれば相談には乗れます。それさえも調べておらず、入社したい企業も言えない。揚げ句の果てに「お薦めの企業はどこですか」と筆者に尋ねてくる人がいるのも、最近の傾向です。自分の目標を達成するために筆者に相談したわけではなく、「何か良い仕事があったら紹介してほしい」というアプローチです。

筆者はボランティアの転職相談ですから会話を続けますが、このような応答では転職エージェントは早晩相手にしなくなるでしょう。求人に応募しても、早々に不採用と判断される可能性も高いでしょう。

志望企業はないが、現職に不満があって転職を考えているのかと思えば、「現職には満足している」と話す相談者もとても多くいます。「現状に不満はないが、何かチャンスを探している」と言うのです。ではそのチャンスが何かと問うと、うまく答えられません。

こんなときは、転職によって得たいものが何かを自分で整理したうえでまたお話ししましょうと伝えるようにしています。しかしそうした人に限ってその後連絡が途絶えることが多いのも事実です。それはそれで、相性が合わなかったと考えてそれ以上追わないようにしています。

学生の面接応対の方がしっかりしている

前半でお伝えしたように、企業の採用意欲は旺盛です。しかしだからといって、自社を志望する動機が不明確で、受動的な態度が目立つ応募者を採用しようという企業は多くないでしょう。せっかく転職者には追い風が吹いているのですから、働きたい業界や企業、極めたい職種くらいは自分の中で整理してから転職活動に臨んでいただきたいと思います。

就職活動中の学生は、それが望ましいかはともかくとして、卒業に向けて忙しい中でも全力で動いています。業界・企業の研究に力を入れ、企業理念などその会社の情報をしっかり読み込んで面接に向かいます。学生と社会人の採用面接を比べてみたら、学生の方が志望動機や自分が目指す姿をきちんと話せていた、ということも珍しくありません。

「学生は社会人経験がないからこそ大きなことを言えるんだ」と冷ややかな見方をする人もいますが、筆者は必ずしもそうは思いません。面接のためにどれだけの時間をかけたかは、熱意として面接官に伝わります。転職活動をする方には、ぜひ学生の熱意を見習っていただきたいと思います。

天笠 淳(あまがさ・あつし)
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。著書に『転職エバンジェリストの技術系成功メソッド』『オンライン講座を頼まれた時に読む本』(いずれも日経BP発行)がある。
[日経 xTECH 2022年10月13日付の記事を再構成]

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