リスキリングと登用 セットでなければお金の無駄
マネックスグループ社長 松本大氏(16)
ビジネスの視点最近はDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れの中で、社員のリスキリングに力を入れる企業が増えているようですが、どんなに素晴らしい講座を用意しようと、スキルアップした人材をしかるべきポストに「登用」する仕組みを作らなければ、お金を無駄にするだけです。逆に学ぶことが登用・キャリアアップに直結するのであれば、たとえ会社が機会を提供しなくても社員は自ら学び、スキルをつけようとするのではないでしょうか。

人材投資をしたのなら、それによって力を伸ばした人材を「登用」しないと意味がない
中小企業が多すぎることもマイナス
ところで、年功序列の他に日本で人材投資が進まない原因をもう一つ指摘しておきたいと思います。それは日本には中小企業が多すぎることです。中小企業は数にして358万社(2016年時点)ありますが、規模が小さいゆえに十分な設備投資や研究開発投資ができません。
だから生産性が非常に低い。そうすると他社との競争では価格で勝負するしかなくなるので、利益も出ない。当然、従業員の給料も上げられないし、人材に投資する余裕もありません。
生産性は、経済規模が大きくなるほど上がる。それが経済の大原則ですから、アメリカなどは国全体として大きな会社を作る方向で動いています。ところが日本は、一貫して中小企業を手厚く保護する政策を取ってきました。そのため、本来なら競争力を失い市場から淘汰されるはずの企業が退出しない。
もしそこで淘汰が起これば、生産性の低い企業から高い企業へと人材が移り、全体として生産性が底上げされるはずなのですが、そうなってないのです。
日本の中小企業は6割近くが赤字です。もうかっていないので、人材への投資もできません。しかも法人税も払っていませんから、国の税収も増えない。まさに悪循環です。
「リスキリング」は大いに結構ですが、スキルをつけたら登用するという流れを明確にすること。そして中小企業については、合併や買収によってもっと規模が大きく、生産性の高い企業に変えていく。この2つをあわせて行うことがとても重要です。新しいことを学びさえすればいいのではなく、それによって個人も企業も本気で生産性を高めていかないと、この国の将来は本当に暗いと思います。
1963年埼玉県生まれ。87年東大法卒、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券を経てゴールドマン・サックス証券でゼネラル・パートナーに就任。99年マネックス設立。2004年マネックス・ビーンズ・ホールディングス(現マネックスグループ)社長、13年6月から会長兼社長。08年から13年まで東京証券取引所の社外取締役、現在は米マスターカードの社外取締役を務める。
(ライター 石臥薫子)