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「気づいたのは、これまで自分はハウツーにばかりに目を向けていたことです。どういう戦術だったら勝てるかを研究し、『こうして、こうすればうまくいく』と教え込み、進んでやろうとしない選手には、ビデオや数値をまるで水戸黄門の印籠のように見せて『勝ちたいんだよね。だったらなんでやらないの』と責めるような言い方をしていました。そうなると『やらされ感』が出てきて、選手は言われたことしかやらなくなります」

「ハウツーをどんなに伝えても限界があるのは、健康やダイエットと同じです。『こうすればうまくいく』というハウツー情報はそこら中にあふれていますが、わかっていてもやらないのが人間という生き物。そこを僕は理解できていなかった」

なりたい自分・ワクワクを引き出す

ではそうした人間の特性を考えた時、どういうアプローチが有効なのか。恩塚氏が膨大な読書から得た答えは3つ。まず、夢や志を胸に抱き、ワクワクしていること。2つ目はそれをかなえるための効果的な方法、ハウツーを知っていること。3つ目が、自分にはできると信じられること。この3つがそろった時に、人は最大のパフォーマンスを発揮するのだという。

そこで一人ひとりに聞くようになったのが「どういう人生を生きたいか」「どんな自分になりたいか?」という質問だ。しかし、いきなりそんな抽象的なことを聞かれて、学生は答えられるものなのか。その問いに恩塚氏は「そこなんです」と身を乗り出した。

「答えに窮してしまう学生には、例えばどういう人に憧れているのかを聞きます。その人のどういうところがいいと思っているのか。あるいは、これまでどういう時に喜びを感じたのか、なぜそんな風に感じたのか。そういう質問を重ねていくと、なりたい自分の姿というのがだんだん見えてくる。それがワクワクを引き出すということなんです」

振り返れば、恩塚氏自身のキャリアも、ワクワクに引っ張られた結果とも言える。大学時代に素晴らしいコーチに出会い、こういうコーチになりたいと憧れて指導者の道を選んだ。教えていた中高では進学校であるがゆえに、自分のバスケにかける情熱がそこまで歓迎されないことを知り、もっとワクワクできる環境を求めて大学に来た。その過程で日本のバスケット界に貢献したいという自身の志に気づいて行動を起こし、日本代表チームにも加わった。

選手一人ひとりにも、「こういう人生を生きたい」という思いがあるはず。そこにアプローチすることが、迂遠(うえん)なようでいて、実は最大限のパフォーマンスを引き出すのに一番効率的なのだと恩塚氏は言う。

「以前は、『人間として』という部分に寄り添うなんて、甘い。そんなんじゃ勝てない、という思い込みが僕の中にありました。でもそれは間違っていた。バスケのために人生があるのではなく、素晴らしい人生を生きるためにバスケがあるんです。そしてそう考えた方が実は頑張れる。これまでずっと『頑張らせるのが指導』だと思っていましたが、選手が自分から頑張りたくなるようにサポートする方が、お互いに幸せだと気づいたのです」

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